第42話 亜人一行に追加メンバー

「…ちょっと待ってくれ。理解が追いつかない。他の三人を呼んでもいいか?」

「いいけど」


ちょいちょいと手を三人の方に振り、こちらに来るように伝える。



「どこまで話したの?」

「ルミナの目的は何かってこと。敵意はなしだってさ」


エシータの疑問に答える。ついでに三人が気を張っていたからそれも解除するように伝えていく。

俺の言葉に警戒を解く三人。そしてこれからどうするのか、という話をしていたことも察してくれたようだ。


「なるほど。それで俺たちを呼んだのか。それを話してくれるってことだな?」

「いや、聞いたんだが俺の耳がおかしいかもしれないからお前たちにも聞いてほしくて」

「ふ~ん?。で、目的は何なの?」


4人の視線を集めたルミナはさっきと変わらない声で何でもないかのように告げる。


「久々に言葉が聞きたかったから」


唖然とする3人。うん、気持ちはよく分かる。俺も最初聞いた時はそうなった。


「あ、加えて言うともっと人数が多いところがあればそこに行きたいから」


まるでとってつけたかのように目的を付け加えてきた。そっちは聞いていないが、メインとなる目的は違うのだろう。目が泳いでいるのが何よりの証拠だ。


「…そりゃ理解できんわな」

「ドワーフが国の外に出るとトンデモな理由で現れるってこういうことなのね…」

「まるで随分誰とも話してないみたい。最後に話したのっていつ?」

「覚えてないわ。旅の途中で記憶飛んでたし」


待て、それは初耳だ。話してくれても…いや、話すタイミングがなかったか。


「半ば記憶喪失まで入ってるのか。俺たちを追いかけてきて突然襲うなんて真似はやめてくれよ?」

「いくら記憶がないとはいえ、そんな真似するドワーフは死ねばいいとって思っているから安心していいよ」

「ああ…まぁドワーフならそう言うわね。一度言ったことを捻じ曲げるの嫌いだから安心してもいいんじゃないかしら?」


ファイネがドワーフのことを知っていてくれてすごく助かっている。こんなとき俺だけだったら一度突き放す選択肢をとっていたかもしれない


「そういう種族なのか。知らないことばかりだな」

「私も。ドワーフ見たことないし。分かるのは…ルミナがすごく強いことくらい。私たちを全滅させるのなんて簡単でしょ?」

「言っていいの?」

「ごめんなさい」


エシータが純粋に疑問をぶつけ、自信が粉々に砕かれるような質問さえも聞いている。エシータにはたまに馬鹿なことやる癖があるのだが…こんなとこでやられても困る。

一度ルミナから離れる。引っ付いていたエシータも引きはがして連れて行く。


「ま、ダイダクが言いたいのは連れて行くかどうかだろ?」

「まぁな」

「いいんじゃない?。戦力面では十分過ぎるし。それに目的は…こんな場所にいたってことは多分遅かれ早かれって話じゃないかしら?」

「確かにそうかもね。聞いた話だと威力強化って全身の魔力強化ができないと無理そうだし、それができるならすぐ着いてたんじゃない?」

「確かにな」


遭遇した場所は出発した町、アドの町まではそこまで遠くない場所だった。いくら空腹で倒れ込んだ程とはいえ下手すればすぐにそこへ向かっていただろう。

そしてルミナ程の戦力が町に向かえば…まず敵対したのは間違いない。そうすると死人が出ていてもおかしくはないだろう。ある意味こちらとしても幸運だったと言える。


「それなら無駄な争いせずに俺たちが連れて行った方がマシだな」

「ドレの方ならそれなりに大きいし、ルミナの目的にも添うんじゃないかな?」

「まぁそれもそうか。ダイダク、お前が決めろ。ルミナはお前が連れてきたんだ、最後まで面倒見ろ」

「分かってるよ。連れて行くで決定だ」


そもそも皆連れて行くのに賛成寄りの話ばかりしてるじゃないか。俺が嫌だといっても連れて行く気が透けて見えているのだから確認でしかないのだろう。


「おい!こっちに来てくれ!」

「何ー?」


一歩でこちらまで跳んできた。間違いなく魔力強化によるものだが、魔力の残滓なんて見えなかった。これがドワーフの実力の一端なのだろう。


「俺たちは亜人が作ってる町、アドの町からやってきた」

「ふむ」

「そして他所の亜人の町、ドレの町に今護衛の依頼で…ええと、どこだ?」


周囲をキョロキョロと見回す。俺たちは護衛依頼である以上依頼人の近くで行動しているが…依頼人もそれなりに自衛できる者ではあるのだ。

前衛として戦う俺でさえ見失うことがあるくらいに。


「ここです」

「わっ!?」

「この影のうっすい依頼人を荷物と一緒に連れて行っているところだ」

「バイラジといいます。商人をやってますな」


突然湧いて出た男に驚くルミナ。まぁ俺たちも初めは似たようなものだったから当然といえば当然だ。


「暗殺でも生業にした方がいいんじゃないの?」

「ははは、よく言われますな。ですがこちらの方が向いてましてな」

「何より暗殺なんて向ける相手がそうそういないからな。仕事がないんじゃ食っていけないってのもあるだろ?」

「五大種族は?」

「敵対したら絶滅させるまで追っかけてくる敵に牙を剥くのは馬鹿もいいところですぞ?」


何を当たり前のことを聞いてくるのだろうか?。こんなのがドワーフの標準だとすると、五大種族も抜けているやつがいるのは亜人と変わらないようだ。

っと、思考が脱線してしまった。


「ドレの町までこいつの護衛依頼を引き受けている。ルミナほどの実力者がいると心強いんだが…どうだ?」

「あたしの目的とも同じだし、一緒に行きましょ?」

「助かる。魔物からは基本的に逃げるしかないが、ルミナが倒せるなら使える道が増えるからな」

「あんなのくらいなら余裕だけれど」


ルミナの視線は焼いたグレイオーガの肉に向けられていた。

グレイオーガに余裕を持って戦える、討伐ができるのか。これは俺たちの方が足を引っ張るようになってしまいそうだな。


「それでは頼む」

「私からもお願いしますぞ」

「ええ、よろしくね」


こうして一時ではあるが、ルミナが俺たちのパーティーに加わることになった。

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