第32話 神使長ハークス
「はっ、誰がやりますかそんなこと!!」
「そうじゃな。お主は男は好きではないものな」
「ええそうです。……どうかしましたか圭介さん?」
「あ、いえ。なんでもないです」
驚いた顔になっていたのだろう。自分でも分かった。すぐに何でもないと言い繕うが、何でもあったことは分かってしまっただろう。
「圭介殿。一つ教えておこう。この世界は魔力の好き嫌いでおおよそ好みが変わる。それは性的なものも同じじゃ」
「違います。魔力なんかではありません。これはラネルコ様のお導きによるものです。」
「性て…えっ!?。ま、さか、男が男をってことも?」
「うむ。それはこの世界では一般的なこと。知っておくとよい」
「一般的であることは否定できませんね。それはラネルコ様も間違いないです」
意外、というより一般常識や一般的知識が違い過ぎるのだろう。
地球では男が女を好きになることが一般的だった。それがこの世界では違うのだ。それだと生物的にどうなのかとか気になることは多いが、問題はそこではない。
さっきの言葉を鵜呑みにするなら、どんな人種であっても性的に見られる可能性があるということだ。
「瑠美…!」
「まぁそう言う訳で監視などいりませんが……魔術師たちから見たら気にくわないでしょうし許可しましょう。?、何か言いました?」
「お主の許可など得ずともやるわ」
小声で言ったからか聞こえなかったらしい。俺が危惧しているのは俺のことじゃなくて瑠美のことの方だ。
俺はこっちに来て初めて会ったのがこんな二人だから安心だった。晴斗と優香も同じ場所なのだから問題があってもそこまでひどいものにはならないだろう。
だがどこにいるかわからない瑠美は違う。生死をさまようことだけ考えるのでは足りない。嬲られるなんてことまであり得る世界なら一刻も早く安否を確認しないといけない。
「監視付けられたら正しい布教ができなくて困るのだけれど」
「神託は夕方って言ってたな」
「ええ。…監視が付いた部屋なんて嫌ですし先に移動しますか?」
「お願いします」
気持ちが先走っているのは分かっている。早く着いたとしても時間は夕方からなのだから時間の無駄だってことくらい馬鹿でも分かる。
けれど身体が少しでも動くなら動かさずにはいられない。それが少しでも瑠美の安否を知る近道になるのなら。
「教会に着くまで監視は付けておこう。神託が終えたらまたこの部屋に戻ってくるがよい。それではわしはもう行く」
リリューはそう言って部屋から出て行った。分かりやすく力になってくれた人が離れるのは心細いが、また会えるのだから我慢するとしよう。
「リリューさんがハークスさんをこちらに寄越すまで話を続けましょうか」
「あ、はい。お願いします」
それから20~30分ほどだろうか。デルーゼはこの世界について話してくれた。
まずこの世界には社会を形成している人間みたいな生命体は6種族いること。人、エルフ、ドワーフ、ジャイアント、フェアリー、それ以外で6つだ。ラネルコ神はそれらは全て人から見たら下の存在として見ている。ゆえにラネルコ教も同様に人以外の種族は排斥する。
世界には魔力が存在し、魔術というものがある。魔力を運用する方法らしいが、これを使って社会を発展させてきたらしい。それによって明らかに強度が足りてない柱だとしても家が作れたりするだとか、ほんの少しの水なのに身体に染みわたり切れるとか、そういったことが可能らしい。
気になったのは生活の基本、衣食住だ。聞いてみたが、これもほぼ魔術で解決されていた。動物を狩るのは非常に簡単らしく、それを材料にで服の作成を魔術で行ったり、肉の加工を行ったりできるそうだ。流石に住まいは洞窟の中に住むのは嫌らしく、木材を森から切って魔術で家を作るらしい。
兎が簡単に狩れるとは言っていたが、俺の知っている兎とは別種だろう。デルーゼが言うに、子供が追いかけて捕まえられる程だというのだから。
晴斗たちの様子とか魔術師についてとか他に聞きたいこともあった。だが扉からコンコンとノック音が聞こえたので今回の話はそこまでになった。
部屋に入ってきたのは2m近い身長を持った筋骨隆々な男。自身に満ち溢れている表情だが、その印象は周囲に熱気でも発しているのかと思うほどの力の塊という他なかった。
「お前が圭介殿か。リリューから聞いたぞ?。惚れた女を探してるってな」
「はぁ!?、何言って!?」
「ははは!。そこまで怒れるなら十分に元気といっていいな。なるほどなるほど…。単純に身体だけ慣れてない感じだろう。リリューの言っていた通り必要なのは時間だけだな」
「ハークスさん。確認はいいでしょう」
「む、そうだな。先に俺の名を伝えておこう。俺はハークス=アレイ、ハークスと呼びな。神使の長って言ってな、神使の中で一番上の肩書を持ってる」
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