第33話 教会へ

一番上、ということは社長みたいなものだろうか。しかしなぜそんな人がここに……って今の俺の状況考えたら十分あり得るのか。実験的なことをやって被害が出た場合の被害者みたいなものらしいし。


「神託聞きたいってのの移動のためだけに俺を呼ばせるとはな。リリューの野郎、そこら辺の神使でも呼べばいいだろうに」

「リリューさんは魔術師ですし仕方ないでしょう」

「それはそうなんだがな……。圭介殿は男、でいいのか?それなら肩に担ぐが」

「え、はい。男です」


いったいなぜそんなことを聞くのか、その疑問が表情に出ていたのだろう。その答えはハークスの口から出てきた。


「性別の判断は外見よりも魔力見ればだいたい分かる。んだが……女みたいな魔力した男とかいるんだ。圭介殿は魔力が今はほぼないのだろう?。それが分からんくてな」

「それは私への嫌味ですか?男みてぇな魔力しやがってとかよく言ってますよね?」


嫌味がちなデルーゼに腹を立てたのか、ハークスの雰囲気が厳としたものに変わっていく。デルーゼもそれを察したのか、ごくりと喉を鳴らす。


「口を挟むなデルーゼ。俺は今、圭介殿と話している」

「すみません。ごゆるりとどうぞ」


圭介はその様子を見て自分が冷や汗を流していることに気づく。それにまるで気温が上がったようにも感じていた。

それは間違いではない。ハークスの雰囲気が変わると同時に周囲に生命力を燃やした熱気が放出されていた。

神使は怒るとその力を解放する。ハークスはそんなに怒っていなかったが、少し漏れ出ただけで圭介には十分に影響を及ぼしていた。


「おっとすまないな、圭介殿。このアホは魔術や魔力への嫌味が好きなものでな、少し思うことがあったのだ。教会へ行くのだったな?」

「ああ。…ぐぉっ!」


ハークスは圭介の背中に手をまわし、圭介の腹を肩に当てるように担ぐ。圭介の顔はハークスの背の方になっており、まるで悪ガキをとっ捕まえたかのようだ。うめき声が漏れるもハークスは気にする様子もない。

のっしのっしと歩くハークス。後ろからデルーゼもついてきているが言葉がないということはさっきのハークスのお叱りが効いているのだろう。

上の人から叱られたみたいなものだろうか。俺で言うと教師に叱られるみたいな感じか?。それなら分からないでもない。


「デルーゼからどこまで聞いた?」

「えっと、何についてですか?」


ハークスがさっきまでと同じ口調で話しかけてきた。けれどその声色には、最初に見た時の自信満々な雰囲気が鳴りをひそめていた。


「圭介殿たちを呼び出した理由だ」

「え。いや、聞いてないです」

「……おい、デルーゼ?」

「神託で届くかと思いまして。神託を早く聞きたいという圭介さんの意志を優先させました」


デルーゼは淡々と答える。その態度がさも当然だと言うように。

部屋で話していたときとはまるで違う。冷静、というより冷酷という方が近いかもしれない。これが表に出た時の神使という人たちなのだろうか?。デルーゼさんだけで判断するのはできないが、これほどの二面性は持っていると見た方がいいのかもしれない。


「……まぁいい。実は俺たちも分かっていない」

「どういうことですか?」


理由を話す、と言ったのにそれが分かっていない?。話がまるで分からない。

困惑する圭介の表情をデルーゼが見つめていたが、デルーゼの表情は変わっていない。部屋から出たことで冷静さが表に出たことと、こんなことを聞けばそんな顔にもなるだろうという予想が当てはまったからである。


「ラネルコ様がまず呼びだしてと神託に下らせた。理由はその後で教えるとも。だからまずはお前たちを呼んだ。だから俺たちも神託にて聞かなければ分からないんだ」

「つまり神様が全て知っていると?」

「そういうことだ」


圭介がデルーゼの方に顔を向けると彼女はコクリと頷く。ハークスだけが知ることではなく、神使全員が知っていることなのだろう。

しかしひどい話だ。後で理由を話すからやることやれ、とは。地球ならよっぽどの信頼が無ければ一人として動かないことだろう。

……いや、宗教だったか。俺は日本という国で生まれ育ったからかそこまで宗教に詳しいという訳ではない。だが宗教の信者というならばやるのだろう。


部屋があった施設、城から出た圭介たち。少し高い土地にあるからか、全体は見えないが町の景色が一部見えた。


「おお……」


独特、そう言う他ない。

重厚感はなさそうなのに屋根だけ厚そうな建物だったり、煙が立っている煙突が木製だったり、地面が土の場所と舗装されている場所と分かれていたりと、地球ならおおよそあり得ない光景がそこにはあった。

圭介に配慮したのかハークスは立ち止まっていた。キョロキョロと周りを見渡し、何か見つけたかのように指を差した。


「あれは?」

「教会だ。外から見ても分かりやすいように二本の長い柱を建てている。一本はラネルコ様へ。もう一本はラネルコ様のお相手への信仰を表している」

「ラネルコ様のお相手?。ラネルコ教はラネルコ神を信仰しているんじゃないのか?」

「間違いではない。だがラネルコ様にお相手がいなければ俺たちも独り身であれという教えになるだろう?。その防止という意味合いもある」


宗教絡みだと言っていることが難しく感じる。根っからの日本人だから仕方ない。こうした方がいいからそうしている、ってことだろうか。


「実際はいないけれど宗教上そうなってるってことか?」

「そうだ。それで神罰が下ったこともないから問題ではないのだろう」


圭介が神罰便利だななどと思っていると、ハークスの足は柱が二本建っている方へと向かい出した。

デルーゼも城の中と変わらずついて来ている。ハークスの歩幅が大きいからかどこか急いでいるようにも見える。


「教会は数だけは多い。二本の長い柱を建てればそれで教会と認識されるからな。ただの家みたいな見た目のところも多いぞ」

「え、そんな簡単に?。聖遺物とか……特別な物とかないのか?」

「基本的には祈れる環境だけあればいいからな。簡単に置ける特別な物はない。が、……極一部だけに大事な物である聖虚物と呼ばれるものは置いてある。今向かっているのはそれが置いてある教会だ。」


適当なところの教会に向かっているのかと思っていたがそうではなかったらしい。

特別な物と言われ、右腕の腕輪を見る圭介。デルーゼは察したのか、否定の言葉を口にした。


「神器ほどの物ではありません。特別な人に作られた物ではなく、私たちが造ったものにラネルコ様が力を付与させたというようなものです。ですがラネルコ様が降臨されたり、神託が詳細まで記載されたりすることが多いのは聖虚物がある教会であるため、神使が神託を確認するのは聖虚物がある教会でなければならないのです」

「…神様が造ったわけじゃないってことか」


詳細まで知りたい圭介からすれば教会の選択はそこしかあり得ない。もっとも、最高位神使であるハークスやデルーゼが行く協会は全て聖虚物がある教会であるため、そもそもの選択肢はなかった。

ハークスたちに町のことを聞きながら担がれていると、10分ほどで教会に到着した。


「ここだ。来るものは来い、来ない奴は来るなってことでな、中にはいつ入っても構わない」

「ここも広いな。そんなに人口って多いのか?」

「人口…人の数ですか。正確には把握できてませんが、十万は軽く超えています。聖虚物がある教会は毎日通うような場所でもあり、避難場所でもあります。それゆえに広さを確保しているのです」


デルーゼが圭介の疑問に答える。教会というのはかなり重要な施設のようだ。日本で言うところの学校と裁判所と避難用の施設が一体化しているようなものだろう。

ハークスは自分の家であるかのようにずかずかと中へ入っていく。この世界では日本とは違い土足が基本のようだ。城といった施設からして予想はついていたが、目の当たりにすると別の国なのだと実感が湧いてくる。


「ハークス様にデルーゼ様。今日はこちらですか。神託には随分と早いですね」

「お前はこないだ高位神使になったばかりの…オウラだな。一人か。珍しいな」

「ですね。いつもなら数人は神使がいるはずですが…」

「他の神使たちは裏で少しお休み中です」


中にいたのは小柄な少年のような神使。見た目だけなら圭介よりも年下にも見える。童顔であることや小柄で細い身体がその神使が男なのか女なのか分からなくさせる。

だが圭介の目はそれよりも別の物に惹きつけられていた。

それは教会に掲げられていた一本の槍。飾りなどは微塵もないが、その輝きは飾りなど意味が無いと言わんばかりのものだ


「…聖虚物ってのはあれのことか?」

「うむ。聖槍レディア、戦闘で無くなってもこの教会に戻ってくるという武器だ。神使の力を高める力も有している。高位神使がよく使っているものだ」

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