第23話 最期の一撃
それは災害だった。
数kmを超える巨体、どんな岩石だろうが破壊し進む踏破能力、大地を揺るがすような魔力量。どれをとっても災害という他なく、地上に一度現れれば他の生物は逃げるしかない、そんな存在だった。
同じような災害と出会っても自身を破壊など出来ず、ただ喰われるしかないという理不尽を押し付ける。それが例え同種であっても同じだった。
逃げたことなど一度もなく、ただ周囲に恐怖を振りまく。生物…いや、血肉を食う度に自らの魔力や生命力が増していくため、都合のいいことだった。
地中から地上へ這い出る。巨体ゆえにそれも億劫なことではあったが、一度這い出て食い荒らせば数度は地上へ這い出る力は得られる。例え今回で食えるものが無くても、あと数度は可能ならば無理に食い荒らす必要はない。災害にとってはその程度のことだった。
地上は森林だった。非常に良い場所だったが、それよりも非常に数が多い生物が近くの荒野にいた。一口で食えるほどの大きさの生物もおり、血肉を喰らいたい災害からすれば楽園にも近しい場所だった。
涎をたらすような感覚で魔力を周囲に振りまきながら荒野へと歩を進める。それは森林に生きる生物には助かったという安堵を、荒野に生きる生物には災害に抗うしかないという絶望を与えた。
荒野に生きる生物は基本的には一種類しかいない。その一種類が上下関係を構築しているため上位種や変異種はあれど、元々は単一の種類だった。彼らは逃げるものが大半だったが、戦おうとするものも多かった。
だが所詮は獣。災害と戦う、ということがどういうことなのか分かっていないものがほとんどだった。
事実彼らの悉くは災害に喰われることになる。残ったのは人の手で数えられるほどであり、残ったものたちも傷が深く、命を落とすことになった。
しかして彼らを喰らったことで災害は影響を受けることになる。それは彼らが血肉を喰らわせたからでこそあれど、彼らの血肉であったかどうかは怪しいものではあった。
影響を受けた災害は力を劇的に増加させた。それはかつて同種と戦った際に入っていた傷のある外殻が全て治ったことや、自らが放出している魔力の圧力が大きくなったことからも明白だった。
災害は意外なことではあったが喜びで溢れていた。
この世界には自分以外にも災害が多く、死ぬかもしれないという恐怖はそれが例え同じ災害だとしても拭うのは困難だからである。ゆえに自らの力を強くすることは誰にとっても至上の命題であり、その近道を行ったともなれば喜びもひとしおだった。
災害が彼らを喰えるだけ喰らった後、その血肉を自らのものにするには数刻が必要であり、ちょうど誰もいなくなった荒野でひと眠りした。
ひと眠りした災害は森へ戻り、出てきた穴から地下へ戻ろうとした。
だが魔力を一つだけ感じ取った。
それは劇的に強くなれたものと同質のものであり、再び同じことが起きるならと行動しないわけにはいかなかった。
それだけが唯一の間違いとは気づかずに。
ゼㇽの衝撃に撃ち抜かれたガイカルドはその身体の大半を失っていた。外殻は剥がれ身体の半分は消し飛び、残った身体はバラバラになり、飛び散った身体も傷がない場所が無いと言うほどだった。
さらに全ての魔力を防御に費やしたため、身体を動かすこともままならなくなっていた。動くこともできず、むき出しとなった頭だけとなっている自身と同じ以上に疲弊している目の前の存在にも手が出せない。
「……っ……。……ぁっ!」
身体に傷跡は無数にあれど彼女の姿は五体満足だった。ゼㇽは指輪になってしまい使えず、魔力も体力も尽き果たし、精神力だけで彼女は立っていた。
地の底から這いついて現れたかのような声を絞り出し、彼女はまるで生きた死体のようにのそりと一歩ずつガイカルドの頭へと足を進める。
「っぁ……ぇ……ぇ……」
その言葉の意味は変わらない。そこに込められた渇望は常に一つであり、声にすれば必ずそう変換されるほどに欲している。
彼女からすれば変わらない言葉だ。だがガイカルドは、ここにきて初めてそれが理解できた……理解できてしまった。
自身の血肉としてしまったそれ、そして彼女の発する言葉を理解できたこと。それらを繋げた結果、これから自身の身に何が起きるのか分かってしまった。
だからこそ自身の消滅すら厭わずに生命力を使い果たす。バラバラに飛び散った自らを、頭ごと目の前の存在を打ち砕くように操る。それは拙い人形遊びのようにしか見えなかったが、その大きさは災害であることに変わりはない。
「……ぁ……ぇ……せ」
頭に到達し、彼女が倒れ掛かる。安堵に倒れたのか、はたまた体力が尽きたのか、どれとも分からないガイカルドは全ての生命力を使い、自らの手で自らの頭を彼女ごと押し潰した。
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