第24話 戦いの結末

討ち滅ぼされた災害。災害を滅ぼしたナニカ。

その戦った跡地には森など存在せず、大量の地割れと大きな岩石が砕かれたような岩だけが残っていた。岩は脈動し、生きているような動きこそしているもののその脈動は少しずつ遅くなっていっていた。


生きている生物は一つとして存在していない。それほどの終末じみた光景が広がっており、風の音が聞こえるほどの静けさが漂っていた。


その静けさが破られることはない。災害が争った跡など誰も近づくことをしたくはないからだ。災害が偶発的に複数現れたことがあるなど、余りにも不吉極まりない。現れた直後にも近しいタイミングなど、再び災害が動き出すことさえ考えられる。そのようなリスクを背負うような生物は一匹としていなかった。


そう、生きている物ならば。






ぐちゅ、と静けさが破られた。







そこに、ある。アタシが、ある。

身体を動かして馬鹿でかいトカゲを砕いた後、あたしはまた身体を失った。魔力もほとんどなくなり、幽霊のような姿を維持する程度しかできなくなっていた。


正確には身体はある。だけどバラバラになったようなものであり、動かせるのはほんの一部だけだった。眼球だけ動かして視界を得る、みたいな動かし方だ。


だけど身体がバラバラになってるからか一瞬だけしかそれを動かすことはできない。ほんの一瞬だけ繋げて動かしてすぐ接続が切れる。似たようなことが記憶こそないものの覚えがあったような気もする。

自由に動かせる身体がないからといって何もしないなんていう訳にはいかなかった。目の前に、あたしが渇望しているものがあったのだから。


(アタシのっ!)


一瞬だけ身体を使うにも声帯が潰れているため声にはならない。しかし何をしてでも手にしなければならないものが目の前にある。叫びたくなるのも当然だった。


周囲に横取りするようなものがいないか確認する。耳を一瞬だけ動かし聴覚を得るも、周囲には風の音しか聞こえなかった。森にいたはずなのに、いつの間にか荒野のような静けさになっていた。


それが彼女とガイカルドのぶつかり合いによるものなのだと彼女は分からなかった。それはレイスと呼ばれる種族の特性によるものだった。

レイスは幽霊のような存在であるがため、自身の目的とすること以外を覚える記憶能力が著しく低い。生物を殺して「食べること」が目的なら、どうやって殺したかは覚えていないというように。レイスの上位種なら改善されるのだが、今の彼女はそのレベルだった。


横取りされるものがいない以上、ゆっくりとでもいいから確実に目の前のものを手に入れる。そう決意して―はて、と気づく。


どうやって手に入れる?。


今のあたしに身体はない。手に入れると言っても使える手は粉々に散ってしまっている以上、手の平に握るという表現では間違っている……そういう話ではない。二度と他のものに渡さないという意味ならどうするのが一番いい?


苦悩、といえるほどの悩み方ではないが、彼女は今の自分の状態でどうすればいいのか方法が分からなかった。だから、考えるのはやめた。


今のあたしの本能的な衝動に身を任せる。今のあたしは幽霊みたいなモノだ。狼が兎を喰うのが狩猟本能から来るもののように、幽霊にも同じような本能があるはずだ。それはそうしなければ死ぬという本能が働くのと同じである以上、今のあたしにだってあるはずだ。


そうして彼女は意識して思考することをやめた。

魔力でできている霊であるレイスは魔力が無くなれば死んでしまう。とはいえ本来レイスは儚い存在であり、魔力をあまりもたない。生前の目的を果たすため魔力だけをもち、存在し続けるということを本能的にもたないのである。


魔力そのものは大気中に存在するため生きることは何もしなくても可能であるがそれはあくまで現状維持のためだけであり、新しく魔力や身体を得る場合は別の方法をとる必要がある。

その方法とは、自らの現状維持するだけの魔力を使い別の生物などの存在の魔力を包み込み、粘性生物が肉体を消化するように魔力を喰らう、というものである。現状維持を求めるなら何のリスクもないが、それ以上を求めるなら文字通り自分の存在を賭ける必要があった。


しかし彼女は通常のレイスではない。彼女は一度、許可を得て肉体を得たレイスである。しかもその肉体は極上という言葉を凌駕するほどのものだった。そのような経験を得てしまったためか、従来のレイスのように魔力を喰らう本能はなくなっていた。


だが代わりの本能が彼女当人から植え付けられていた。それは―返セ、つまり自らの肉体を二度と離さないように奪えというものだった。

霊体であるレイスが肉体的衝動を得ることは本来あり得ない。草食動物が肉食になるようなものである。にもかかわらずなぜそんなことが起こり得たのか、それは一言で説明できた。


それが可能だったから、である。

彼女は一瞬しか動かせないものの、バラバラになった口と歯を何度も何度も動かす。見えてこそいないものの口と歯は既に噛みついており、あとは噛み千切るだけだった。亀が歩くよりも数十倍遅い遅さではあれど、少しずつ噛むように動きをしていく。


ぐちゅ、と目の前の肉を噛み千切った。


直後、世界に光が弾けた。

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