第21話 ガイカルドとの戦い

baa……aa!?」


ガイカルドの何が起きたのか分からないという叫び。それは災害獣であるガイカルドが無視できないダメージを負ったという証明でもあった。


ガイカルドの右手のど真ん中に風穴が開いていた。そしてそこには槌を肩に下ろして佇むドワーフの女性が一人。彼女は親を殺されたとでもいうような形相であり、今にも食い殺すと殺意を秘めた魔力を垂れ流していた。


「返セェ!!!」


獣のように雄叫びをあげてガイカルドの右手を全て壊すかのように振り回す。ガイカルドが右手の風穴を修復しようと魔力を集めて再生していたが、それを遥かに上回る速度で右手が破壊されていく。


「ba……ruaaaaaaaaaaaaaa!!!」


ガイカルドが魔力を込めて右手に向けて咆哮する。暴虐の嵐とすら称される竜のブレス、その災害獣ともなれば破滅を与えるほどまでの威力に膨れ上がっていた。

数秒続いたその方向は大地に風穴を開け、底など見えないほどの深さまで貫いていた。

ガイカルドの右手も無くなっていたが、ただ一本の柱のようになった場所だけが残っていた。


それは上から見れば十字架のような形をした柱。その上には咆哮に向けて槌を盾にしていた彼女が立っていた。姿形は無傷のように見えるが、魔力が半分ほどまで減っていた。


レイスだった彼女は元々魔力など持っていなかった。だが魔力を感じなければレイスにすらなれなかったこと、ルーナの身体に憑りついていた結果魔力の使い方を学んでいたこと、それらにより魔力を扱う術を得ていた。総量こそルーナに比べれば極々わずかだが、彼女にはルーナが遺した魔法槌ゼルがあった。


ゼルはほんのわずかの魔力を浸透させるだけで災害獣すら粉砕する力を持つ。尋常ではないその力はかつてドワーフ同士の内乱すら引き起こしかけたほどの傑物。使い手がルーナであれば一撃でガイカルドの外殻すら容易に砕けただろうが、彼女ではそこまでの力は引き出せなかった。

だが彼女にはそれで十分過ぎた。


「ア…タ……シ……返セ」


彼女は右目から見える視界にトカゲの頭を捉える。早く一つになれと叫ぶかのように、右目が共鳴に疼く。トカゲの頭にあるあたしの身体も応えるように胎動していた。


「baa?」


ガイカルドも自身の異常に気付く。荒野で手に入れた新たな力、それが原因だとすぐに特定できた。

ガイカルドは荒野で食べた狼が異常な力を持っていたことは分かっていた。異様な力を持っていようが所詮は狼、群れようが災害獣であるガイカルドからすれば美味しい餌に過ぎなかった。

だがその中に数体、災害獣であるガイカルドでも外殻以外を狙われたら面倒だと思うようなものがいた。彼らも半数以上がガイカルドに呑まれたが、その力はガイカルドに引き継がれていた。


その力はガイカルドに更なる魔力の強化を施し、仮に別の災害獣と戦ったとしても傷一つなく勝てると確信させるに至っていた。


だがその力が今は仇となっていた。力同士が共鳴し、身体が引き寄せられていく。

ガイカルドは左手の爪を頭にかける。頭の一部を切り裂き、共鳴している箇所を無理やり引き抜こうとしていた。が、左手に力を込め始めたその動きがピタリと止まる。


「ba」


一部どころか頭を切り落とすほどに力が増大し過ぎている。その事実に気づけなかったのは仕方のないことだった。

災害獣はその強大過ぎる魔力や力を持つが故に、自身がさらに強大になったときにどれほど強大になったのかをすぐさま理解できない。1の力が101になるのと、100000の力が100100になる時の変化量の違いだ。

さらに災害獣はその力を振るう相手がいないことが多いということもあった。災害獣が力を振るうのは別の災害獣と戦うときくらいである。正確な力を把握するというのが非常に難しくなる、それこそが災害獣の弱点だった。


そしてその動きを見逃す彼女ではなかった。


「返セ」


右目が共鳴する箇所、額へと跳躍しゼルを思い切り振り下ろす。その勢いと魔力は十分であり、右手を破壊した時の威力を考えれば頭を粉砕できる一撃だった。


「ガッ!?」


しかし残念ながらその一撃は額には当たらなかった。ガイカルドの額まで迫った一撃だが、額から勢いよく生えてきた角によって彼女の身体は腹を穿たれ、大きく吹き飛ばされた。

彼女の一撃は生えてきた角に掠ってはいた。掠った角をへし折り、折れた角は彼女の腹部に突き刺さったまま、共に飛ばされていく。


数百m吹き飛ばされていく彼女をガイカルドの瞳は逃がさない。ガイカルドの百足のような尻尾が背中を三日月のように描いて彼女に向けて振り下ろされる。その長さによる遠心力は途方もなく、尻尾の先の速度を音速を遥かに凌駕させていた。


数千トンを遥かに超える重さによる音速を超えた攻撃。そこに災害獣がいると呼ばれるだけの衝撃がハウタイルの森全域に響き渡る。

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