第15話 寝床の作成と1日の終わり
ハウタイルの森で寝床のための岩場を探していたルーナだが、探索はすぐに終わった。
この世界は災害獣という概念が存在する。それはひ弱なものたちからすれば、安全なところを見つける能力が高くなければ死ぬということである。
なればこんな辺境もいいところと呼べる場所にいる人やエルフとはどのような特徴を持つのか?。その答えの一つがこの探索速度だった。
見つけた岩場はガイカルドが現れたであろう地割れの近くであるため、ルーナが警戒するような魔物も近づいていなかった。
「あとは少しだけ掘っておしまいね」
ルーナが両手で洞窟を作る岩に触れる。魔力を指先に込め、粘土に手を埋めるかのようにずぶずぶと岩に入っていく。十指が入ったところで、真下に引き裂く。
「はっ!」
そしてルーナは引き裂くと同時に真横に跳躍した。
この岩場を掘る方法ではひっかくだけなので、どれだけ腕力があっても岩はせいぜい表面が削れる程度しか削れないはずであった。だがルーナが十指に込めた魔力が岩の中まで泥水のように変貌させていた。そして出口は小さいが引き裂くように作った。それが示す結果は一つである。
ルーナが引き裂いた跡から泥水が濁流のように噴出する。泥水は地割れの方に流れていき、地の底へと落ちていく。
一、二分程で泥水は止まった。残ったのは岩に洞窟のようなものと、泥水がところどころにあるだけだった。
「泥水は邪魔ね。一箇所に移動させておきましょうか」
ルーナがパチンと指を鳴らすと同時に洞窟が流動する。入口の近くに10mはあろう縦に深い穴が形成され、そこに向けて泥水が流れていく。
洞窟内は傾斜がそこまでないにも関わらず流れていく泥水。ルーナの魔力が一度でも浸透した岩石ならば、ルーナが操作するのも簡単だった。
ルーナは泥水が掃けて乾いた洞窟へとズカズカと入っていく。暗闇の中であり、くねくねとした道だが足取りに迷いはない。数分もかからずに最奥まで辿り着いた。
「寝れば魔力も回復するし、明日はバウル平野を抜けて…ヤクツート群山の途中まで行ければ上出来ね」
明日の予定を考える。災害獣という不確定要素があるため予定を立てることに意味はないのだが、どこまで行けるかという目安は欲しかった。
ハウタイルの森を北西に抜けるとザール平原があり、そこをさらに北上するとレーデン高原に続いている。さらにそこを抜けるとヤクツート群山に辿り着く。
ドワーフやエルフの国はそこからさらに西に抜けなければならない。…ホントにここは辺境だ。明確に行こうという意志がない限り来ようとだなんて思わないだろう。
「できればその辺りでバルとウルを災害獣の素材で武器強化しておきたいけれど……あるかしら?」
ヤクツート群山とは、かつてヤクツートと呼ばれた災害獣の墓場である。既に残骸となり、当時の魔力も消え去っているため、武器の素材には使えない。死体も土に還っており、名前だけがそこに残っている。
だが土の記憶を読み取る魔術を使えるルーナならば材質を再現することは可能だ。そこから武器に派生させたり、武器の強化するための素材とすることも容易となる。
「いえ、考えていても仕方ないか。朝早くから行動したいし、寝ましょう」
ルーナは横になり魔力を放出する。横になって接地している箇所へと魔力を浸透させクッションのように柔らかくし、睡眠がより深くなるように変化させた。
その後数秒もせずにまどろみが来たのでそのまま身を任せる。静かになった洞窟には空洞音だけが響いていた。
夜になると夜だけに現れる魔物がいることをルーナは知っていた。だからこそ自身の魔力で覆われた場所を作れば縄張りと勘違いして逃げるという方法をとった。
だが本来のルーナならこんな行動をとらなかっただろう。本来であればもっと直情的な性格のルーナは一息にヤクツート群山へ向かい、死んでいたはずだった。
それを回避していた理由、なぜそうしようと考えたのか。即ち思考が誘導されていた事実を、このときのルーナは知らない。
その原因たる、小指の爪にも満たないレイスの存在を彼女は知らなかった。
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