第13話 ルーナ流探知術
軽く正拳突きを放つルーナ。手刀や上段蹴りといった格闘術を舞踏のように行っていく。
「両腕に服は問題なしね。あとは武器……といっても、この辺りだとやっぱりあんまり上質なものはなさそうね」
格闘術の確認で自身の精彩な動きは問題ないことは分かった。あとは愛用の武器さえあれば大概の魔物は撃退できる。
だが武器といっても鉱石が無ければ作ることはできない。それはドワーフほどの技術を持っていても同様だった―魔術師ルーナを除けば。
ドワーフは土系の魔術を非常に得意とする。鉱石を別形状への変形など簡単もいいところだ。だが性質の変更や混成構造への変化、すなわち合金にする魔術は難易度がそれなりに高い魔術だった。
しかしそのレベルならまだ出来るドワーフは多い。問題はそれらを合成圧縮する技術である。
100tを超える大量の土や鉱石を準備し、布切れほどまで圧縮する。すなわち密度を操作する魔術、これだけはドワーフの技術と言えど数千年はかかるであろうほどの魔術だった。
それらの魔術にかかれば大量の土さえ用意すれば十分な性能をもった鉱石を作成することができる。ルーナはそれができる唯一の魔術師だった。
「やはりバウル平野の方が鉱石は多いわね」
地面に手を当て魔力振動による探知を行う。地球で言うところの反響定位、エコーロケーションと呼ばれる能力に近いものだが、魔力による探知はそれより遥かに精度が高い。
何せ水中だろうが地中だろうが空気中だろうが関係なく、物質が持つ魔力に反応するのだ。地球と違い、波長を透過する物質が魔力という概念で一律になっており分ける必要がないため、探知の膨大な範囲さえ制御できれば最高の効率と言える。
「ただ気になるのは……半端な武器で役に立つかしら?」
ルーナは……否、この世界の知的生命体はみな知っている。この世界には魔物などというレベルではない、災害のような被害をもたらす存在がいることを。
それは全長数十kmを超える蛇竜が如き生命体だったり、地中に眠る山のような大きさの一本角の黒き外皮を纏う城のような生命体だったり、中にはただの兎にしか見えないような生命体だったりする。
そのほとんどが知的生命体の社会に損害を途方もない規模で与えている。さらにそれほどの存在は社会形成する場所に制限をかけられることさえ多い。ねぐらとしていればそれだけで脅威足り得るからだ。中には習性を利用されて益をもたらすものも存在するが、極々稀である。
そしてそれらの存在は災害たる獣、災害獣と呼ばれていた。彼らを撃退するのは人知を超えるようなものでもなければ非常に困難であり、撃退しようとして滅ぼされた国の方が多いほどだ。
だがそれほどの存在であるということは、知覚されやすいというデメリットを負っていた。
「魔振探知……ぁむ。周囲数十km内に災害獣はいない。それなら武器も作れる」
生命体は常に魔力を放出しており、その魔力総量によって放出量は変わる。ルーナはそれを知っているからこそ災害獣の探知ができた。
災害獣も生命体である。そしてその大きさは山のようなサイズであることが多い。であれば、そこから放出される魔力量も途轍もなく大きい。それこそ敏感な者なら数百km先でも探知できるほどに。
自身の魔力をほんの少しだけ一度外へ放出、それを再び喰らうことで外へ出た魔力が自然界におけるどんな魔力の影響によって変化しかけたのかを知ることができる。これによりルーナは災害獣がいれば位置を知ることができた。
だがハッとルーナは嫌な気配を感じ取る。それは森に入ってきた方向、その先のさらに先から、そんんな感覚を得た。
災害獣……ではない。そもそもナルゼラ荒野はローヴルフの縄張りだ。ローヴルフは単体で見ればかなり強い魔物程度だが私なら軽く撃退できる。今の装備で魔力が万全なら百体くらいまでならなんとかなる。それを超えるといろいろ覚悟しなければならないが、戦えないほどではない。
では一体何が?。ローヴルフの変異体でも現れたのだろうか。それなら危険度は災害獣になり得るかもしれない。武器もない今の私では戦うのは避けたいところだ。
「バウル平野へ急ぎましょうか。……嫌な感覚ね」
ルーナは魔力を身体に込め、肉体の強度や感覚を強化する。鎧のように魔力を展開すれば、ささいな障害なら無視して進むことも可能だ。
ルーナは風のように地上を駆ける。空気の壁にぶつからない程度に、速さそのものが身体への負担にならないような速さを維持して走った。
ハウタイルの森を数十分で駆け抜けるルーナ。それを確認したかのように、ハウタイルの森に数kmを超える地割れが走った。
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