第12話 ルーナ流服装調達術

ハウタイルの森の中に入ったルーナは周囲を見回しながら歩いていた。

周囲には兎が警戒もせずに飛び跳ねていたり、植物がこれでもかと言わんばかりに生えていたりした。


「んー……厳選するような素材はなさそう?」


ルーナはこの森には何度も入ったことがあった。だからこそ森の中にある希少な素材を使って衣服を作ろうとしていた。

希少な素材の選別は簡単だ。魔力を極々薄く放射状に展開し、反応をした動植物を探せばいい。

ルーナは知らなかった。この技術は今現在ではドワーフの魔術師でも非常に難しい技術だということを。彼女は息でも吸うかのように行使していたが、見るものが見れば卒倒する光景だった。


「……!、見つけた」


左後方にグリンとルーナの首が回る。左後方50mほどの距離にある樹、それが目当ての素材だった。


「ルートトレント、になる前の木。この森で前に見つけたことがあったわね」


ルートトレント、それは木の魔物であり、トレントと呼ばれる魔物の中でも根に特化した魔物である。根、即ち土に依存するという特性を持ち、トレントのように木への擬態ではなく、土の中に埋まる根に擬態するという種族である。

その特性故に土系の魔術と非常に相性がよく、最大サイズのルートトレントが行使する魔術なら国を二つにする地割れすら起こす程である。

それほどの相性は、魔術師の杖に使われる素材であることを意味する。土系の魔術師ならば喉から手が出るほど欲しい素材でもあった。

そしてルーナはもう一つ知っていた。ルートトレントになる前の木は土系の魔術と相性が良い上、自身の魔力を込めて武器道具を作ることで、自身の魔力総量をわずかだが増やせる特性を持つということを。

ルートトレント変貌前の木に近づく。魔物に変貌する前がために襲ってくることもない。


「うん。これなら衣服にはちょうどいいかな」


手刀に魔力を込める。自然過ぎるその魔力の移動は、周囲の木々などの自然環境すら何の反応もしなかった。


「はいっと」


ルーナはなぞるように手刀を木に水平に当てた。明らかに木の幹まで届いていない手刀であり、ルーナが手刀を振り切っても倒れることはなかった。


「準備できたし……。それじゃあ、術式展開」


手刀を当てられた木が少しずつ浮かぶ―否、水平に切られた木の上部だけが浮かんでいく。

先にあてられた手刀は切れていないなんてことはなかった。切れ味が良すぎたがために、切断面すら見えないほどだったのだ。

浮かび上がった木が回転を始める。枝や葉は回転に従って吹き飛ぶはずだがそんなことにはなっていなかった。幹から剥がれた枝葉は慣性が奪われたかのように地面へと垂直に落下する。

徐々に幹だけになっていき、太い枝の一本すらなくなっていく。

回転は幹だけになっても止まらない。外皮から薄くスライスされていく。それはまるで一枚の布生地のように変わっていく。


「生地は完成。そしてこれに……」


ルーナは木の生地に手を当てて自身の魔力を浸透させる。生地が少しずつ色が変わっていく。薄い肌色のようなそれが、橙とほんの少し青を織り交ぜた渦のような柄へと。


「あとは分けるだけ。えーっと……こうね」


ルーナは両手の人差し指で十字を作る。それを生地に当てて、生地を切らないように手を引いた。

生地はバラバラと寸断され、一枚の生地がいくつもの生地へと切られていく。その影響はは生地だけに留まらない。

切られた生地がさらに細かく、細かく切られていき、糸のような細さへと変貌していく。変貌した糸は生地へと伸びていき、切られたいくつもの生地を8つに分けて繋ぐ。


「完成ね。……まぁ簡単なものだし、見た目は良い素材が入ったらまた考えましょうか」


8つに分けられ、作られた服を着ていく。股肌着と胸肌着、袖のない上半身用の下着と、ももの半分までの下半身用の服、それに加えて膝まで届くような丈の外套。外套は紐のようなもので腰の位置で縛る。

最後に膝上まで届く長い靴下。それを履いた時にルーナは自身のミスに気づく。


「靴を忘れてたわね……。この切り株使えばいいかしら?」


ルーナは切り株の切断した跡を両足で踏み抜く。足が足首まで切り株に突き刺さり、ルーナの足が抜けないような形になる。

だが何が起きているか分かるルーナは顔色一つ変わらない。


「ん、これでよし」


メキメキという音と共に、刺さっていた足を身体が向いている方へ進める。バキッという音が鳴り、切り株の一部が破壊されてルーナは足を切り株から抜いた。

その足には地球でいうところのローファーと呼ばれるものが履かれていた。

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