ふっふーは走り去る

「おいぃぃぃ!」

 必死で追いかけるも虚しく、とんでもないスピードで走り去るふっふーを、すっかり見失ってしまった。

 ……やらかした。

 吾輩は、ついつい怒りを抑えきれなかった。

 次は、気を付けよう。

 ……次は、あるのか?

 しかし、ここまで来たからには手ぶらで帰るわけにもいかず……。

 ……って、待って。

「吾輩、帰れるのか?」

 すっかり編集長に指示されるまま戸棚を開けてしまい、あれよあれよという間にこの世界へやってきてしまったが。

 ……帰ることを、完全に忘れていた。

「えええ、どうしよう……」

 反射的に、ジャケットの内ポケットに入れていたスマホを取り出す。

 ……LINEが三十件も来ていた。

 全部、編集長。

「えーっと」

 内容を確認する。「さっきは気持ち悪いって、どうしたの?」「大丈夫?」「ごめんね?」「ねえ、返事して」「俺、変なこと言った?」「俺が悪いなら直すから」……。

 ……彼女か。

「でも、フツーに電波通じてるし、こうやってLINE来てんなら大丈夫なのか?」

 約一分置きくらいにLINEが飛んできていたことに戦慄を感じるも、連絡しなかった吾輩が悪い。

「ごめん、編集長、今LINE見た……っと」

 ……秒で返信が来た。「よかった、安心した。ごめんね」。

 だから、彼女か。

「聞いてみるか……」

 吾輩は、ふっふーと名乗る生物に出くわしたこと、帰る方法がわからず困っていることを伝えた。

 ところで、ふっふーと名乗る生物と敢えて表現したのには理由がある。

 どうも、人間のようには見えない、印象がフワフワした生物だった。

 人間と表現してもいいような髪の毛、耳、鼻、目、口、二足歩行……のような特徴はあるものの、どうも、人間と表現するには抵抗があるような……。

 どうにも、ボヤッとしたやつなのである。

 ……と説明しているうちに、吾輩のLINEには編集長からのメッセージが五件も到着した。

「なになに……。帰る方法は知っているから安心しろ……?」

 え、そうなのか。

 てっきり吾輩、この世界の住人として余生を過ごすものだと思ってた。

「だから、とりあえずふっふーを探してほしい……か。なるほど」

 どうやら、動物の特集記事にしてもいいのではという編集長の思惑があるらしい。

 ……だから、あのときちょっと興奮していたのか。

「とは言われてもな……。逃がした上に、写真の一枚も撮ってねえ……」

 記事になるような、写真でも動画でも撮ってこねえとな。

 吾輩は、意外と真面目な一面があるのだ。

 もちろん、ご褒美を期待してのことだが。

「さて、また、歩きますか……」

 ふっふーが走り去った方向に、とりあえず歩いていくことにした。

 歩くこと、体感五分。

 ……ふっふーは、倒れていた。

「ちょっと! 大丈夫か!」

 思わず駆け寄る。

「う……」

 どうやら、怪我をしているらしい。

「家はどこだ。おぶってやってもいいぞ」

 吾輩は、意外と体力があるのだ。

「お、お願いしますやい……」

 吾輩は、ふっふーをおぶった。

 吾輩の身長は一五〇センチしかないのだが、こやつはちょっとでかい。

 非常に、歩きにくいぞ。

 ふっふーに指を差されながら案内されて、歩くこと十分。

 ついに、超ふぁんしーな小屋に辿り着いた。

「おかえりやう!」

「おかえりやえー」

「どうしたんだやお」

「あ、アンタ、俺を殺そうとしたやつやあ!」

 ……ふっふーが、五体になった。

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