問題編⑨ ~読者への挑戦状

 外。沙織さんと一緒に行動してるから全然空間移動が使えん。使うとしたらもうこの場を離れるところだろうな。何も俺の個性を活かせてない。悲しいぜ。

「なんで足跡が帰りの分しかないんだと思う?」

 そりゃあ、帰りしか足跡がつかなかったからだろうよ。雨が降ってるときは雨で流されて、帰るときには雨が上がってた。それだけの話じゃあないの。まあ俺ってば今普通に事実を述べてるんだけど。

「まずは密室の謎を解かないと、話が先に進まないわ」

 ふうん。頑張って。俺は困ってるあんたを見て十分楽しませてもらってるからな。でもそろそろ飽きてきた。解決編はいつだ。あ、そっか、俺がもうこの時点で挑戦状をたたきつければいいのか。

 でもよ、密室なんて、魔法でもなきゃそんな簡単にできるわけないだろ。そんなほいほいほいほい密室ができてたらこの世は完全犯罪だらけになっちまうぜ。もし密室を作る方法があるのなら、あの部屋を密室にした方法ってのを俺が知りたいくらいだわ。

「あ!」

 急に耳元で叫ぶな、鼓膜が破れたらどうすんだよ。

「なるほど、そういうことだったのね。たしかにその通りよ、仗介くん。ありがとう」

 さも事件は解決したとでもいうように沙織さんが呟いた。ほんとかよ。解決したのか? そのありがとうは何に対してのありがとうなんだ?

「今すぐみんなをホールへ集めてくれる?」

 やだよ。自分で集めろよ。俺はあんたの小間使いじゃない。

 というわけで解決編が始まっちゃうみたいだぜ。なんか面白そうだからついさっき読んだ犯人あてを参考に読者への挑戦状でもたたきつけてみるか。

 山田部太を殺した犯人ってのはだーれだ。犯人は単独犯で、犯人以外の人物は故意の嘘をついていない。そして俺は犯人じゃないから地の文にも嘘はないぜ。これは絶対だからな。最後にもうひとつ条件をつけ加えておくと、一応、一応なんだけど、登場人物に俺以外に能力者はいなかったからな。それは俺が保証してやるぜ。能力者なんていたら解決できるもんも解決できやしない。それじゃ、健闘を祈る。

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