問題編⑤
「お前は誰なんだ」
谷川港波人さんからの痛烈な疑問。
俺は金田一耕助です。そこの沙織さんは絶世の美女です。金田一耕助ってのは嘘です。沙織さんが絶世の美女ってのは本当です。
「君は横溝を読むのか」
横溝ってなんだ?
俺はとぼけてみせる。すると波人さんはわかりやすくがっくりと肩を落とす。ぷぷー。金田一くらい知ってるっての。馬鹿にすんな。
「正直、僕としてはは君の存在はどうでもいい。僕にとっては君の存在もおそらく何か意味のあることなのだろう。この世界は僕の都合のいいようにしかならないからね。だから君の存在も僕にとって都合のいいものになるはずなのさ」
「彼、ご都合主義者なの」
ご都合主義は知ってるけどご都合主義者って何。ここでそんな面白そうなネタを消費していいのか。
「波人くんはうちの会の編集長で、最高権力者。彼がノーと言えばノーだし、死ねといえば死ぬ」
独裁者かよ。
「僕は犯人じゃない」
あ、普通に無視された。
「僕は今日、玄関入ってすぐのホールで朝からずっと執筆と編集作業をやっていたんだ。会員みんなが不甲斐ないからね。僕の無実は弘大さんが示してくれるよ。朝からずっと一緒に過ごしていた……とは言ってもあまり言葉を交わさなかったけど。ずっとノートパソコンの液晶画面とにらめっこさ。でも周囲の様子くらいは覚えてるよ。玄関を出入りした人間も、一階と二階を行き来した人間も全部知ってるし覚えてるよ。まず死んだベータさんは朝一階で朝食を食べて二階の自分の部屋に行ったっきり一度も降りてきてない。そもそも部屋を出てないんじゃないかな。トイレは一階にしかないけど姿を本当にただの一度も見ていないから。あと二階の部屋は俺と弘大さんとやもり。計四人だね。やもりは降りてきたよ。雨が止んだあとに一階に降りてきて、そして外に出ていったね。外に出ていったと言えば、沙織ちゃん、君も外に出たよね。雨が降る前に外に出て、雨が止んだあとにびしょ濡れになって帰ってきたね。散歩に行っていたって言ってたっけ。災難だったね。ところで犯人はわかった?」
「ううん。まだ。手がかりは集まってる気がするけど」
俺は犯人わかってるぜ。目撃者だからな。
「そういえば編集長、梯子ってさ、この別荘のどこかにあった?」
「梯子? 別荘にはないけど、物置にならあるんじゃない? ほら、館の裏手にあるさ、掘っ立て小屋みたいなやつ。昨日ここに来たときにみんなに教えただろ、あそこには何でもある。四次元ポケットならぬ四次元小屋だって」
何でもある小屋なんてあるわけないだろ。でもあそこから梯子を持ち出したのか。知ってたくせに、まったく白々しい女だぜ。ま、とりあえず見に行ってみるか。隙を見て空間移動、外へ。空間移動、掘っ立て小屋へ。中を見る。コンクリ部分が不自然な感じで濡れてるね。誰か雨のときかそれとも濡れた状態でか入ったっぽいね。これだけで犯人絞れそうだよね。でも誰も見に来る様子はないからこれで判断したりってことはないんだろうな。惜しいな。
「ありがと。犯人がわかったらまたみんなを集めるね。探偵らしく」
「もう一度言うけど、僕は犯人じゃない。なぜなら僕が犯人じゃないほうが僕にとっては都合がいいからだ」
それはみんなそうだ。
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