問題編③
登場人物
唐湊沙織(とそ・さおり)……京極大学推理小説研究会会員。真犯人。
山田部太(やまだ・べた)……同研究会会員。被害者。ベータって呼ばれてる。
谷山港波人(たにやまこう・なみと)……同研究会編集長。屋敷の所有者。
姶良翔子(あいら・しょうこ)……同研究会代表。
湯之元弘大(ゆのもと・こうだい)……同研究会会員。
桜ヶ丘やもり(さくらがおか・やもり)……同研究会会員。
城ケ崎仗介(じょうがさき・じょうすけ)……通りすがり。魔法使い。通称ジョーカー。イケメン。身長そこそこ。世界で二番目に好きな食べ物はコンビニに売ってるあのどでかいプリン。
こんなもんか? 推理小説の登場人物紹介ってのは。これでわかりやすくなったな。まあ、俺ってば、今紹介した人たちに睨まれてるわけだけど。死体の前で。
「誰こいつ」
あ、どうも、見た目も頭脳もだいたい子どもの名探偵コナンです。私が現れるとだいたい殺人事件が起きます。嘘です。
「この人は城ケ崎仗介くん。急に雨が降ってきたからこの建物で雨宿りしてたんだって」
俺の渾身の自己紹介を無視してきちんとした紹介してくれてどうもありがとう沙織さん。
「では状況を整理しよう」
咳払いで場を引き締めようとしたのは、編集長でありこの館の持ち主である波人。眼鏡くいっがよく似合う。
「僕がミーティングをしたいと言った。翔子さんがみんなを呼びに行った。するとベータさんから反応がなかった。僕が持っていたマスターキーで部屋の扉を開けたらベータが死んでいた。そしてみんなベータさんの部屋の前に集合。これでいいかい?」
死んだベータさんの部屋の前に六人いるんだよ今。でもそれで全然狭く感じないから廊下としてはめちゃ広い。そして開け放たれたドアの向こうにあるのが部太くんの遺体だ。
「電波が入らないから電話はつながらない。そして固定電話もない。誰とも連絡が取れない。ここに迎えが来るのはあと五日後。つまり今この森の奥にある館はクローズド・サークルになっているんだ。まあ、推理小説研究会の人間ならそれくらいはすぐにピンとくるかな」
あー! それ! クローズド・サークル! さっき出てこなかった単語! 警察来ない、誰も来ない。こいつらはいったいどう対応するんだ。それが楽しみで俺はここにいるんだ。
「部屋の状況を確認してみよう。扉付近でベータさんが死んでいた。凶器は近くに転がる花瓶。血が付着していた。後頭部右側を何度も何度も殴られている。そして死体から窓にかけてフローリングの床に水がぶちまけられている。さらにこれが一番重要なのだが――」
ごくりとみんなが唾を飲んだ。待ってましたと言わんばかりの表情をみんなしていた。なんだこの集団。きもちわる。
「この部屋は、密室だ」
Oh、とまるで欧米人の反応。きもちわる! なんだこいつら!
「扉はオートロック。外からは開けられない。そして窓は最初から鍵がかかっていた」
だってあの鍵、俺が閉めたしな。そこから犯人逃げたんだよ。
「窓に鍵がかかっていたことは僕と、翔子が一緒に確認している。ふたりで、だ。誰かがあとから閉めたというようなことはない」
俺が閉めたよ。
「状況説明ありがと」
礼を言ってきたのは代表である姶良翔子さん。眼鏡、長髪。着の強そうなつり目。美人だけど絶対モテないやつだこの女は。
「犯人、そいつじゃないの? 誰がどう考えても犯人寄りの犯人でしょ」
そうやって俺を指してきたのは桜ヶ丘やもりさん。犯人は俺じゃないよ。沙織さんだよ。
「犯人じゃないよ。仗介くんはいきなり私の部屋に入ってきたの。誰も玄関から入って二階に上がって部太くんの部屋に入ったのを見てないでしょ?」
かばってくれたのはなんと犯人の沙織さん。なんで俺をかばうのか知らんけど。
「でも一応彼も容疑者であることには変わりないぞ」
そういうのはおっさん顔の湯之元弘大さん。なんだ、みんな少しずつ順番に発言してるぞ。なんかそうしなきゃいけない決まりでもあるのか? 誰かがしゃべるたびに俺が説明しなきゃならなくてすっごくめんどいんだけど。
「そうさ。最大の問題は、この中にベータくんを殺した犯人がいる、ということだ」
編集長に台詞のターンが戻ってきた。喋ってないのいない? みんな喋った? そりゃあよかった。
「そして我々にとって早急にしなければならないことは――」
お、なになに?
「誰が探偵役をするか、ということだ」
なにいってんだこいつ。いやみんなも頷いてるし。え、こいつもメタキャラなの? それ俺の役目なのに? ってか友達が死んでるのになんでそんな話になるの? こいつってわりと死んでもいいキャラだったの?
「だってこいつ、ベータのくせに語尾アルファだし」
波人さん。別に語尾くらいええやんけ。って語尾つける人間とかほんとにいるのかよ。めちゃくちゃキャラが立ってんじゃねえか。
「ベータさん、地下アイドルオタクで気持ち悪いんですのよ。地下アイドルのライブに行って日焼けして帰ってくる男ですわ」
翔子さん。いやそれも別にいいじゃん。彼にとっちゃ地下アイドルが太陽なんだよ。ってやかましいわ。
「こいつ実は煉獄って技が打てるらしいんだけど、繰り出したところで小学生しか倒せないらしい」
弘大さん。さすがに馬鹿にしすぎでは? そんな技名だったら人殺せるだろ。
「死ぬときは密室じゃないところで死にたいって言ってたのにだいぶ密室寄りの密室で死んでてめっちゃ笑う」
やもりさん。爆笑しすぎ。それミステリジョークか何か? 俺全然笑えない。
「あいつに対して大した思い出もない。興味がないから」
沙織さん。一番まともっぽいな。一番かわいそうだけど。ベータさんが。
「まあ、クローズド・サークルで殺人事件が起きたら誰かが犯人を指摘する探偵役になるのが当然必要ですわ。私は絶対にしませんけど」
話を戻す翔子さん。そもそもそういうのって話し合って決めるんですか? まあいいけど。俺の口挟むとこでもないし。ってか話し合って決めるならじゃあ俺が探偵役やってもいいってこと?
「私がやる」
「ぼくがやるよ」
ふたり立候補。俺が手を上げる前に。負けたわ。今回は探偵役はゆずるわ。って手を挙げたふたりのうちひとりが沙織さんで犯人やんけ。犯人が探偵するんかい。
「あら、やもりくん。探偵ってのはね、犯人じゃない人間がやるのよ」
「ぼくは犯人じゃないですし、犯人寄りの犯人でもありません。ぼくのほうがあなたよりもよっぽど探偵寄りの推理小説研究会員ですよ」
「やもりくん、あなたは殺されたベータさんと非常に仲良かったじゃない。そんな人間より、彼とまったく仲が良くない私が一歩下がったところから探偵をやるほうがよくない? そう考えたらこの中で一番適役なのは私だわ。そしてワトスン役で私たちの身内じゃない仗介くんを使う。公平なジャッジをしてもらうために」
どんどん話が進んでくんだけど。ワトスンって何? 役?
「ぐぬぬ」
ぐぬぬって言ったぞやもりくん。ぐぬぬって言う人初めて見た。ってか今ので論破されたことになるんだ。それよりワトスン役って何?
「他に探偵役の立候補者は? ちなみに僕は嫌だ。喋る台詞が増えて喉が渇くから」
そんなんどうでもいいからワトスンって単語について教えてくれよ。俺スマホ持ってないから調べられないんだよ。
「決まりだ。これから迎えが来るまで五日間、探偵役は沙織さんに任せる。犯人を見つけてくれ。ちなみに僕は犯人じゃない」
無視かよ。
はい解散、という感じでみんなベータさんの部屋の前から散っていった。ドライだな、こいつら。人が死ぬことに慣れてるのか。人間らしくねえな。マジ、人間が書けてないよ。
残された探偵の沙織さんとワトスン役の俺。ワトソン役ってのは謎。
「ワトスンってのは、シャーロック・ホームズの助手みたいな感じのやつよ」
ああ、シャーロック・ホームズは知ってるぜ。蛇と紐を間違えるやつだろ。ってかそれならワトスン役じゃなくて助手役って言えばいいじゃん。二文字減るぜ。これだから専門用語使いたがりオタクは。
本当だったら俺帰っちゃダメ? なんて思ってるけど、今の俺は面白がってここにいるからセーフ。いざというときは俺は空間移動で逃げられるしな。
「さて、どうしようか」
と、沙織さん。俺、探偵の仕事わからない。だから適当に現場検証でもしたら? って言ってみる。するとそうだねって返事。マジか。自分で作った犯行現場を検証するんかこいつ。探偵ってのは大変だな。世界で二番目に大変そうな職業だ。
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