問題編②
はい場面転換。ああ、場面転換は俺の能力じゃないよ? 俺の能力はあくまでも空間移動だ。そんなキング・クリムゾンみたいな能力持ってないよ。
かいつまんで状況説明。女悲鳴。俺悲鳴。外騒がしくなる。俺は慌てて違う違うんだ俺は怪しいものじゃないと白々しい演技。そしたら女が外に向かって「大丈夫。ゴキブリが出た」みたいな説明して俺をかばうの。何だこの女。俺ってゴキブリなのかよ。変な女だ。
「あなたは誰?」
問う女。まあ、そうなるわな。
俺は通りすがりの仮面ライダー。嘘です。
「はあ?」
女、当然の反応。
城ケ崎仗介ってんだ、と普通に自己紹介。窓、開いてましたぜ。
「え、嘘。閉めてたと思った」
開いてたよ。俺は窓を示す。俺がさっき開けた窓。でもそれを見て女は納得。
森の中をさまよってたら急に雨が降り始めたんだ。そしてこの建物を見つけて、雨宿りをさせてもらった。そしたら君が入ってきた。驚かせてごめん。
「え、森の中をさまよってた? なんで?」
迷ったからだよ。言わせんな恥ずかしい。
「ひとりで?」
友達いないし。
「変な人」
俺はとりあえず笑う。いやでも人殺しのあんたに変な人とか悪口言われたかないね。
それにしても静かだな。あの男が死んでも誰も騒がないのか? 俺以外の登場人物みんな共犯なのか? 女がよそ見。空間移動、外へ。空間移動、死体のある部屋へ。うん、まだ死体はあるな。空間移動、外へ。空間移動、女の部屋へ。だいたい一秒くらい。だから女には気づかれてない。
「私たち、大学の推理小説研究会で、ここに合宿に来てるんだよ。今度の学祭で出す同人誌の執筆状況が思わしくなくて、編集長が思い切って親の所有しているこの別荘で合宿を企画したの。静かな空間なら執筆もはかどるだろう、って。でもてんでダメ。昨日ここに来たけど、まだ一文字も書いてないの。あ、私はトソサオリ。よろしく」
なんだこの女。訊いてもないのに説明口調で説明してきたがった。親切だな。その親切のおかげであんたらがどういう集団なのかはわかった。推理小説ってあれだろ、人が死んでそれをなんか探偵みたいなのが人を集めて犯人はお前だ! って指摘するやつだろ。それを研究するやつが人を殺したなんていかにもじゃないか。ウケる。
「君、その肩にある絵、ひょっとしてタトゥー?」
え? これ? この両肩で笑う道化師のやつのこと? そうそう、これ刺青なんだよ。友達に彫ってもらった。俺は通称ジョーカーって言うんだ。切り札、って意味のジョーカーだぜ、笑う道化師は俺の化身なんだ。トランプでババってこんな絵だろ。
「やっぱり変だね、君。面白い」
うるせえな。俺が本当に面白いんだったらこんな退屈してないわ。マジで。
急にドンドンドンと扉がノックされる。びっくりするからノックするときはちゃんとノックしますよって言葉くらいかけろ。
「ちょっとサオリ、編集長が進捗状況確認したいからミーティングするって言ってますわよ。ホールに来なさいよね」
女の声。さらに登場人物が増えた。えっと、今いるのは、目の前のサオリって女。あともうひとり女。殺された男がひとり。生きている男が三人。合計六人か。そんなもんか。
サオリが返事をして外に。数十秒後、俺はあたかも自分が登場人物であるかのように部屋を出た。そして悲鳴を聞いた。女の悲鳴がひとつ。おっと、とうとう発見したみたいだな。
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