第4話 はい。これはただの事故です。
レオン・サーベラス
サーベラス家三兄弟の次男坊。
原作の『イわく』においてはイザベラと同じく羅武螺舞学園に通っており、主人公のエマ・シャルロットの攻略対象の一人でもある。
その性格は自由奔放で、俗に言う所の『俺様系』といった表現が似合う男だ。
今現在のレオンはただのクソガキにしか見えないが、羅武螺舞学園編では身長180越えのイケメンへと変貌を遂げる。
「ご、ごきげんようレオン様!」
俺は黒い丈の短いドレスで軽いカーテシーを行い様子を見る。
唐突な登場で驚きを隠せない所ではあるが、舐められないように慎重に立ち回っていくか。
サーベラス家の家訓は『力こそパワー』
舐められたらそこで終わりだ。
「はっ、相変わらず辛気臭い顔してんな。やっぱ吸血鬼ってのは日中は低血圧気味なんか? ん?」
「お気遣いありがとうございます。ちょっとあばら骨と内臓が何個か持ってかれた程度ですのでご心配なく。吸血鬼は
「……言うじゃねーか」
レオンは威圧感を放ちながら無言で近づいてくる。
●【ちょっと大助さん! 何でわざと怒らせる様な事言うんですか!?】
何故か俺の部屋着を着ているイザベラが若干の抗議を飛ばしてきた。
■「最初のイメージなんてのは悪い方が何かと都合がいいんだよ。『いい奴』なんてのは結局は良いとこ止まり。つまり、『いい奴』が良い事をするのなんて当たり前だ、って思われてるせいで善行によるプラス値が低いんだよな。恋愛において『慣れ』つまりはマンネリは最大の敵になる。つまりは相手に自分を
●【そ、そこまで考えてレオン様を煽っていたんですね……】
■「まぁ、実際のところはちょっとムカたってだけなんですけどね」
●【ただの売り言葉に買い言葉じゃないですか!】
「ちょっとお兄様落ち着いてください! そして何で付いてきてるんですか! アンナは一人でお出かけできるって言いましたよね!?」
アンナがにじり寄るレオンと俺の間に入る。
「俺は親父から万が一がないようにと護衛を頼まれて付いてきてただけだ。だから早くそこをどけ」
「嫌です! お姉様を傷つけていいのは私だけです!」
「……そうか、なら力づくでどかすしかねーなぁ!」
レオンは右手を上げアンナを殴る素振りを見せた。
●【アンナちゃん危ない!】
イザベラの叫びと同時に駆け出し、アンナの前方を通り過ぎながらレオンの前まで行く。
そして、タイミングを見計らったかのように、『何かに躓く』素振りを見せそのままの勢いでレオンを押し倒す。
「ア、ナニカニツマズキマシタワ~」
「「なっ!?―――」」
●【なっ!?―――】
ドシッと音を立てレオンは背中から倒れ、その上に重なるように俺も倒れる。
子供特有の暖かい体温を感じながら、無言で動かずに体を密着させる。
「お、おい……いつまで上にいるんだよ……早くどけよ……」
「……………………」
俺は無言のまま動かない。
「……おい聞いてんのか?」
「……レオン様の体、暖かくて気持ちいいです」
「!?」
レオンは俺の発言を聞いた瞬間、緊張してしまったのか体を硬直化させ『一枚の敷布団』の様になってしまった。
●【ちちちちょっと大助さん! 今度こそ本当に何をやっているんですか!?】
■「ふふふ、知ってるかイザベラよ。この歳の男にとっては女ってのは『未知数』な存在だ。レオンの頭の中は今頃、『俺の先の発言』と『リアルな女の感触』でいっぱいな事だろうよ。こりゃー、今夜のオカズは俺で決まりだな」
●【ちょっと! それじゃ私が淫乱女みたいじゃないですか!】
■「よくそんな言葉知ってるな。R18展開には絶対にしないから、とりあえずは『パーフェクトエンド』の為だ、耐えてくれ」
●【うぅぅ……恥ずかしいですよぉ】
「……お姉様、何をやっておられるのですか?
―――あっ、忘れてた。
飛び跳ねるようにその場に立ち上がりアンナの方を向く。
「ち、違うんです! 躓いた拍子にこうなってしまっただけで他意はありません! だから落ち着いてくださいアンナさん!」
黒い炎を手元に発生させながら虚ろな目で近づいてくる。
「ワタシノコトモアイシテ ワタシノコトモアイシテ ワタシノコトモアイシテ」
「……アンナさんは私にとって
すると、手元に発生していた黒炎は発言を聞くや否やスッと消え去り、目に光が戻った。
「……え?。今、『かけがえのない親愛なるアンナ』とおっしゃりましたか?」
うん。言ってないね。
アンナの機嫌を取り戻し終えひと段落したところで、足元のレオンの様子を確認する。
すると、何やら目を丸くさせながら一点をガン見している様が窺えた。
その視線の先を注視してみると、何やら俺の足元付近を見ているようだった。
ちょうど今、レオンの上で足をハの字に開きながら立っているから足がよく見えるんだろう。
……ん? 待てよ。
俺は再度レオンの視線の先を確認した。
……ほう。
「レ、レオン様一体どこを見ているのですか?」
硬直させていた体をビクッとさせ、おどおどとしながらレオンは答える。
「い、いや? 俺はな、
「私の下着を見てましたよね?」
レオンの発言を食い入るように遮り攻め立てる。
思考の時間を一切与えるな。
「み、みてねーし。 勝手に決めつけんなよ! それに、見てたって証拠でもあんのかよ!?」
「―――お兄様?」
再度後ろに物理的な熱を感じる。
「……ア、アンナ落ち着け。話せばわかる。俺は本当に見てないんだって」
「懺悔の言葉は地獄でして下いねお兄様」
アンナはまるでゴミを見るかの様な目で実の兄を蔑む。
そして俺はそれとは対照の「私は信じてますよ」風の優しい笑顔を向ける。
「う、うぅ……イザベラ、す、すまない……俺は……馬鹿野郎だったぁぁぁぁ!!!」
「あっ、お兄様! どちらに行かれるんですか!?」
唐突に発狂し、来た道を逆走しようとしていた。
「俺は、俺は……うわああぁぁぁぁぁ!!! サーベラス家の次期党首として失格だぁぁぁ!!」
自身の性神的弱さから逃げ出すかのように走り出した。
そして俺はこの場から逃げようとするレオンの手を強引に
「わ、私は気にしてませんから! だから……過度に自分を責めないでくださいね?」
今できる最高に可愛い笑顔を、精神的に弱っているレオンの心にぶち込んだやった。
すると、
「貴族の令嬢に対しての粗相……この責任は必ず取る。だから……何か困ったことがあったら言ってくれ。……必ず守るから」
俺の言葉で冷静を取り戻したのか、やや俯きながらではあったものの最高にかっこいい言葉を告白する。
俺はその
「ありがとうございます! レオン様も何かあったらいつでも言ってっくださいね?」
「お、おう……」
よし、落ちたな。
ここで築いた『フラグ』は後々効いてくる事だろう。
♂♀♂♀♂♀
「そういえば、私はこれから魔王立図書館に行こうと思っているんですがお二人も一緒に行きませんか?」
本来の目的は図書館に行き情報収集をすることだ。
この二人を連れて行くことによって、何か有益な情報が落ちるかもしれない。
もちろん、デメリットもあったりはするがそれ以上の期待値があるら問題ない。
「私はお姉様と一緒なら地獄にでも行きますわ!」
「……そうだな。お前からの誘いだ、付き合ってやらない事もないな」
「ありがとうございます。では、さっそく図書館に向かいましょう!」
二人の了承を得て仲良く三人で図書館に向かう事になった。
♂♀♂♀♂♀
城門をくぐって外に出るとそこには広大な緑が広がっており、目の前には大きい一本道と、首のない馬が二頭と客車つまりは馬車が配置されていた。
空は青々としていて、ゲームでの暗くどんよりとしていた『魔人界』特有の雰囲気は一切なかった。
何も知らない時にここが人間界だと言われたらおそらく信じてしまうだろう。
「あれ、お二人の馬車が見当たりませんが、どこか別の場所にあるんですかね?」
目の前にある馬車はスカーレット家の家紋が付いてあった。
それぞれの家には家紋と呼ばれるものがあり、スカーレット家の家紋は『氷のバラ』でサーベラス家は『三つ首の番犬』だ。
「
「俺は最初、馬車で追いかけようと思ってはいたんだけど、アンナが走って行ったもんだから俺も走らざるおえなかったって感じだな」
「私は一秒でも早くお姉様にお会いしたかったんです! お馬さんのスピードでは6時間もかかってしまいますが、走りなら2時間で着くのでそうしたんですのよ」
うわぁ……二時間も走り続けられる体力があって、馬の三倍速いってなんやねん……
「そ、そうでしたか。なら図書館までうちの馬車で行きましょう。多少なりとも休憩はできると思うので」
「ハァハァ……お姉さまと一緒に密閉空間……高まりますわ!!!」
「……お、俺は馬車の上で時間になるまで寝てるわ」
アンナはやや興奮気味で、レオンはさっきの出来事がまだ頭に残ってるって感じか。
……魔人界の将来が若干心配になってきたな。
すると、『私が運転手です』みたいな雰囲気を漂わせながら一人の
……待って、
【助爺】
ゲームの魔人界編においての貴重な移動手段の一つで、正式名称は『スケルトンライダー』。
スケルトンライダーは魔人界編で発生するイベント、『スカーレット家防衛作戦』を成功した場合に限り特典として使えるようになる移動手段で、話しかけるだけで行ったことのある場所ならどこにでも連れていってくれる良いスケルトンライダーだ。
その影響か、それまで移動手段が苦痛だったこのゲームにおいては聖人的な存在として扱われ、いつしかこのスケルトンライダーの事を皆親しみを込めて『助爺』と呼び始めた。
それは俺自身も例外ではなく、助爺にはかなりの恩があった。
助爺は一言も発することなく席に着き、俺たちが馬車に乗り込むのを待っていた。
■「イザベラ! あの御方『助爺』は喋ったりすることが出来るのか?」
●【すけじい? あのスケルトンライダーの事ですか? 喋りませんよ、
■「馬鹿野郎ゥゥゥゥウ!!! 『あれ』じゃなくて『助爺』と呼べ!!! あの御方は多くのプレイヤーから苦痛を取り除いた聖人様だぞ!? オーケーわかった。俺がイザベラになったからには助爺にはいい生活をしてもらおうじゃないか」
●【え、でも意思は持っていないですよ?】
■「意思を持つか否かなど関係ない。助爺は助爺なんだよ。いつもお世話になっているんだったら、それ相応の報酬を払うべきだ」
●【そ、そうですか……あ、そういえば大助さん。この『黒い板』ってどうやって使うんですか?】
ロリベラはテレビを指さしながら質問してくる。
■「あぁ、それは『テレビ』って言って、公共の電波を引っ張ってきて映像を映す機械だな。とまぁ、簡単に言えば『超すごい紙芝居』みたいなもんだな。ほら、テーブルに小さい黒いやつがあるだろ? 右上の赤いボタンを押せばつくからやってみな」
まぁ、脳内のテレビが付くはずはないんですけどね。
●【えーっと、これかな? 右端右端と。これだ!】
イザベラが電源ボタンを押すと同時にテレビの画面に映像が流れだした。
●【うわッ!? ……え? 大助さん! 人間さんが映ってますよ! どうなってるnでsk!?!? あわわわわ】
■「いや付くんかい! マジでその空間どうなってんだよ。まぁ、女神のやることにいちいち突っ込んでも仕方ないか。 イザベラ、別にテレビは攻撃してこないから安心しろ。何かあったらまた呼んでくれ」
●【は、はい!】
アタフタするイザベラを放置し、俺は助爺に話しかけに行く。
「助爺様いつも私たちを運んでくださり本当にありがとうございます! 何かとあるとは思いますがこれからもよろしくお願いしますね!」
俺はいつもの癖で会釈してしまったがまぁ、今回は許してくれ。
助爺は何も言ってはくれなかったが、どこか嬉しそうに見えた。
いや、きっと俺の願望のせいでそう見えたんだろう。
俺とアンナは車内に入り向かい合う様に座って、その後にレオンが上に乗った。
全員が乗車したのを確認してから馬車は出発した。
かなりどうでもいい話ではあるが聞いてほしい。
……後ろを振り向いた時の助爺めっちゃ可愛かったな。
よし、いざ魔王立図書館にレッツゴー!!!
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