第3話 やっぱり時代は木造建築
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太陽の暖かな日差しを浴びて俺は目を覚ます。
「ん……んぅ…もう、朝か。今何時だぁ―――あだだだだだだッッッ! 痛ったッ!」
俺は起きて早々、いつもの様に部屋のカーテンを開けた。
すると、『麻酔なしで歯を抜く』かの如き痛みが全身に走り渡り、反射でカーテンを閉めた。
訂正 太陽の『攻撃』を浴びて目を覚ます。
「……え。あ、そうか、俺今吸血鬼だもんな。……いや待って! 何で
――確か、魔人界ってずっと月が太陽代わりになってたはずだけどな……
俺は念の為に一度、思考時間を設けた。
こういった後々の問題になりそうな物事は早期に解決をしておくのが吉だ。
……確かゲームでは魔人界編は羅武螺舞学園編の後、つまりはイザベラが王子を攫った後に登場した世界だったはず。
でもその時にはもう既に太陽はなったよな……
自身にとってのリスクを早めに排除しておいた、というのは可能性としては十分現実的だ。
何なら、10秒ほど前に自身で体験したからわかる。
どの世界でもニートと吸血鬼にとって太陽は共通の敵だ。
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とりあえず椅子に座り、今日の予定を整理する。
「さて、今日はどうするかな。とりあえずは、魔王立図書館に行って【寡黙なる羊】のフラグを立てつつ、魔人界の情報集めをするのが効率的か。いやでも、図書館は【沈黙卿】のエンカウント率が地味に高かったよな……あった瞬間に死ぬなんて可能性があるにはあるのか……いや、イザベラなら即バッドエンドにはならないか? ああああどうしよ!!!」
俺が汚い幼女ボイスで一頻り騒いでいると、脳内から可愛らしい幼女ボイスが聞こえてきた。
●【大助さん起きたんですね! おはようございます!】
■「お、おう、おはよう! ―――ってかなんだこれ!!!」
そこには、キッチンで
●【これすごいですよね! 大助さんが寝ている間に無名様がいらっしゃって色々作ってくれたんす!】
本体の幼女イザベラの事を考えた瞬間、一枚のモニターの様な物が頭の中に映し出された。
そこには、本来肉体を持たないはずのイザベラがキッチンで料理をしていて、その他にもテレビ、食卓、ソファーと
■「いやそこ、俺ん家やん!!! ってか何で俺の頭の中に部屋があるんだ!?」
そう、まぎれもなくその景色は江呂下家の一階リビングそのものだった。
●【無名様曰く、『ただ暗闇の中にいるのも退屈だろうし、大助くんの家を仮想的に作ったから暇な時はここで時間を潰すといいよ。因みに、ここでは本体の肉体と全く同じ複製、コピーを作っておいたから多少は落ち着くと思うよん♡』だそうです】
■「やりたい放題じゃねーか!!! ……まぁ、確かにカスタマイズした世界線を強引に作れるだけの力が有れば、脳内に別空間を作り出すことなんて朝飯前か。因みに、『無名』ってのはあの無駄に色が明るい女神の事でいいんだよな?」
昨晩姿鏡に現れた髪の毛が無駄にピンク色だった女神を思い出す。
●【はい、呼び名がないのは不便なので、恐れ多くはありましたが本人に許可をもらって命名させてもらいました。そうだ、大助さん! ちょっと今からする事を見ててもらっていいですか?】
やや興奮気味に問いかけてくる。
まるで「今から凄い物を見せてあげる!」とでも言いたげだ。
■「ほう。これ以上俺を驚かせるのは難しいと思うけど? もうすでに、脳内モニター(ガチ)を見てしまったからね」
●【では行きますよ……】
そう言い、幼女イザベラは部屋のドアをゆっくりと開け、廊下を渡り別の部屋に
■「おおおおおお!!! 部屋の移動をリアルタイムで出来るのか!? 待って、もしかして、家
『大助くんの家』なんて言ってはいたけど、実際のところリビングの事を指しているんだろうなと高を括っていた
しかし実際は、幼女イザベラが廊下に出て、別の部屋に移動しているのがリアルタイムでモニターに映し出されていた。
■「ち、ちなみに、家の外に出るとどうなるんだ?」
●【外は真っ暗ですね。どうやらこの空間は、私の演算処理能力があって初めて実現しているらしく、外に町とか作っちゃうと脳みそがパンクしちゃうみたいです】
■「あーなるほど。別の空間の映像を脳内に繫げてるとかじゃなくて、現在進行形で脳がその空間を作っているって事か」
●【そうなりますね。他にも、『プライベートサウンド』や『プライベートカーテン』『スイッチボタン』の様な便利なアイテムもあります。『プライベートサウンド』はオンオフを切り替えられて、オフの場合はそちら側と会話ができて、オンの場合は音声情報が遮断されるらしいです。『プライベートカーテン』はこれの視覚版ですね。『スイッチボタン』は強制的に精神の内と外の入れ替えを行う物らしいです】
■「はーん。つまりは」
『プライベートサウンド』……聴覚情報を管理するデバイス
『プライベートカーテン』……視覚情報を管理するデバイス
『スイッチボタン』……俺とイザベラの位置を強制的に入れ替えるボタン
こんなところか。
■「あれだな、ちょっと試しにプライベートカーテンを閉めてみてくれないか?」
●【わかりました!】
すると、今まで見えていたモニターがブルースクリーンかの如く『無名のWピース姿が映ったカーテン』で覆い隠された。
■「いや、なんかムカつくなそのカーテン! もっと他に柄はなかったのかよ……とりあえずもう開けていいぞイザベラ!」
●【このカーテンの柄、私は普通に可愛いと思いますけどね。それと、先程言い忘れていたんですが、『スイッチボタン』は1日に1回しか使えないみたいです。『かなり精神に負荷がかかるからご利用は計画的に』だそうなので注意が必要ですね】
■「マジか……まぁ、1日1回あれば最悪のケースには対応できそうか」
●【そういえば、大助さんは今日はこの後はどうするんですか?】
■「あぁ、そうだった。今日は情報集めを兼ねて魔王立図書館に行くつもりだな」
●【図書館ですか、何か調べる事があったりするんですか?】
■「この時代の魔人界の情報全般を調べようかと思ってる。特に、人間界と魔人界の関係と時事ネタに関しては必ず拾っておきたいな。ゲームでは、『魔人側の何者かが人間の子供を殺した』ってのが戦争の火種になったんだけど、そもそもこの情報は本当に正しい物なのかと疑っててな」
●【……つまりは、何者かが戦争を誘発させるために仕組んでいた可能性が高いって事ですか?】
■「あくまで可能性の話だけどな。ゲームでは描写されなかったってだけで、そういった動きが実際はあったのではないかとは考えているな。そもそも、これから戦争おっぱじめるかって時に、四大貴族の令嬢の留学許可が出ると思うか?」
●【……考えにくいですね。私たちスカーレット家は人間界と積極的に交易をしていて、魔人界における『食』を一緒くたに担っています。仮に私に何かあれば魔人界の『食』の流通が止まって、全国の魔人さんたちが反乱を起こす可能性が高いですね】
■「そうそれな。人間側に警戒されないようにあえて留学を止めなかったのだとしても、魔人界においてかなりの権力を持つスカーレット家に対して、そういったリスクを取ったてのは考えにくいんだよな。特に魔王軍七魔将の一柱である【賢者アルモデウス】がそれを見逃すとは思えない。もし仮にそんな事があったのなら、アルモデウスに死よりも恐ろしい目に合わされた後に人間界側で公開処刑されてるだろうしな」
●【えぇっ。アルモデウス様はそんな事しないですよ! とてもお優しい方で、小さい頃はよく遊んでもらってましたし】
■「あいつそんな一面もあるのか……。イザベラに優しかったのは知能値が高かったからだと思うぞ。あいつにとっては知能値が規定以上ないやつは
そう、アルモデウス含む七魔将連中はまじで容赦がない。
アルモデウスに関して言うのであれば、こちら側の知能値が規定に達していなければ問答無用で即バッドエンドになる初見殺し野郎だ。
ゲームにおける初対面時には【賢者】という称号すら判明してなかった為、何が原因で即死するのかすらわからない厄介な存在だった。
結果、詳しい情報が出るまで『とりあえずは視界に映ったら逃げろ』と、言われるまでの鬼畜眼鏡として知られていた。
ちなみに、その時にエマの知能値によってルートが変わるってのを最初に見つけたのがこの俺だ。
■「さてと、一日は思ったよりも短いからもうそろそろ動くか。とりあえずは、足でフラグを稼せぎまくるぞ」
●【何かあったら気軽に呼んでくださいね!】
■「おけ」
俺は魔王立図書館に向かうべく部屋を出た。
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部屋を出た後は、【影魔法『
ちなみに、『闇纏』に関しては昨晩寝る前にイザベラからコツを教えてもらい使えるようにしておいた。
『闇纏』の能力は結構便利で「自身の視認性を下げる」魔法だ。
つまりは認識阻害系の闇魔法の一つという事だ。
まぁ、【沈黙卿】には通用しないだろうが、ないよりかはましだろう。
『闇纏』を解除し、城門を押して出かけようとしたその瞬間、予期せぬ問題が発生した。
「お姉様あぁァァァァァ!!! お会いしとうございましたあぁァァァァァ!!! ていっ!!!」
「ん? 誰の声―――ぐっふッ……」
門を開けたその瞬間、何者かがとてつもない勢いでタックルをしてきた。
あまりの勢いであばら骨がいくつか折れ、灰の中の空気が一気に押し出された。
●【だ、大助さん大丈夫ですか!?】
口の周りを血液スープで真っ赤に染めながらイザベラは叫ぶ。
■「……い、息が出来ない…」
「あばば…く゛る゛し゛い゛……」
「ご、ごめんなさい! だ、大丈夫ですかお姉さま!」
朦朧とする意識の中、眼前に映る黒髪の少女の顔を見て密かに戦慄する。
なん……だと……。
まさか……この時期にはもう既に会っていたのか……?
黒い短めの髪の毛に、目立つ黒い犬耳。
そこには、ふさふさの尻尾を左右に振りながら、ルビーの様に輝く瞳でこちらの様子をうかがっている幼女がいた。
……アンナ・サーベラス、何でここにいるんだ?
「……えぇ、大丈夫ですよ。 それよりアンナさんはどうしてここにいらっしゃるのですか?」
「大丈夫そうでよかったです! 今日はお姉さまとゆっくり食事でもと思いまして。あれ? アンナが今日来るとお父上様から承っておりませんか?」
「・・・あれー? そうでしたっけ? あはは、ごめんなさい、最近ちょっと調子が悪くて……」
ヤバいヤバい!!!
何でこんなところにいるんだよ! ふざけんな!
●【大助さん、アンナちゃんの事知ってるんですか?】
■「……あぁ、知ってるよ。まぁ、あくまで知ってるのは学園編でのアンナだけどな……」
●【えぇ!? アンナちゃんも私と同じ学校に通ってたんですね! 人間嫌いな子だったとは思うんですけど克服したんだぁ……友人としてはとても嬉しいですね】
■「……いや、人間嫌いは五年後も治ってないよ」
●【え? じゃぁ、何で人間界の学校に留学してたんですか?】
■「……十歳の子供が聞くような話じゃないぞ。だから、この話は忘れような」
●【……もしかして何か重い病気を抱えてて人間界に治療しに……】
■「いや、そうじゃないんだよ……」
●【もったいぶらずに教えてください! お願いします! 私気になるんです!】
俺はこの残酷な事実を告げるか否か迷ったが、どのみち避けては通れない道だと悟り意を決して話すことにした。
■「……遅かれ早かれわかることか。……わかった、心して聞けよ?」
●【はい! 何を聞いても驚きませんから!】
■「五年後イザベラはアンナ
●【……え? えぇぇぇぇぇ!? どうゆう事ですか!? アンナちゃんはそんな子じゃないですよ!】
当然の反応だ。
突然「あなた仲のいい友人に犯されますよ」なんて言われたら、誰だってそういう反応になるだろう。
■「いや、よく見てみろ。もうすでにその片鱗は見えているぞ」
「体調不良ですか……ちょっと私が観て差し上げましょうか?」
美しい赤い目を輝かせながら、ハァハァと息を荒げ近づいて来る。
●【いやぁぁぁ!!! 嘘だぁぁぁ!!! アンナちゃんはとても親切で優しい子なんですよ!】
■「安心してくれ、原作ではアンナのイザベラ襲撃イベントは合計三つあるからさ」
●【何も安心できないですよ! ……アンナちゃんに三回もですか】
■「ちなみに三回のうちどれか一つは
●【―――そんな……。……大助さんなら、なんとかできますか?】
イザベラは餌を懇願する子犬の様な顔でこちらを見る。
■「当然だろ。イザベラの問題は
●【大助さん……】
■「イザベラ……おにいちゃ―――」
●【嫌です】
妹の気持ちのいいツンデレを味わいながらも、俺は攻略モードに意識を移行する。
『ギャルゲマスター』の意地に懸けて、初見攻略を成功させてみせる。
クレイジーサイコレズの攻略は難易度が高いだって?
おーけー。
かかってこいやぁぁぁぁ!!!
すると、クレイジーサイコアンナの後方から同年代くらいの男の子の声が聞こえてきた。
アンナと同じ黒髪に赤いルビーの様な瞳、歳相応のクソガキ感が漂う少年は言う。
「はっ。アンナのタックル一つ躱せねーのかよ、スカーレット家も落ちたもんだな」
なにぃっ!?
魔界四大貴族の一つ、サーベラス家の次男にして次期党首 レオン・サーベラス本人がそこにいた。
レオン様きたぁぁぁぁぁぁ!!!!
『イケわく』における攻略対象者の一人 レオン・サーベラスが現れた。
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