第6話 3人のDQN

「なぁコージ、最近どおよ?」


「どうもこうも」


 俺はハイエースワゴンのハンドルを握り、夜道を走りながらツレのマサルにそう返した。

 高校は出たものの、俺たちの出た高校は県内屈指のバカ高校。


 就職先なんてどこにも無くて。

 俺たちは全員プーだ。


 俺だけは1回、親父のコネでどっかの聞いたことも無い会社に行ったことあるけど。

 他の社員はどいつもこいつも有名高専だとか、大卒だとかで。

 いけすかねえし、目で俺のことを馬鹿にしてきやがったから3日でやめた。


 仕事自体もつまらんかったしな。

 夜勤も多いみたいだったし。


 何で徹夜であんなしょうもない仕事をしなきゃいけないんだ。

 やってられっか。


「ババアも親父も最近は何も言ってこなくなったからやっと平和になったけど、代わりに毎日つまらんわ」


 そう俺は、マサルに答えた。


 くっだらねぇ。

 毎日イライラする。


 世の中運だわマジで。

 親ガチャ。

 この一言に尽きる。


 俺は親のせいで学校のしょうもない勉強と言うやつに適性が無い。

 適性が無いからバカ高校にしか行けず、学校を出た後、大学を出た奴とか高専を出た奴に見下される。

 全部親が悪い。


 なんで学校を出ていないというだけで、ろくな仕事が無いんだ。

 ふざけてる。


 仕事が無いと女も寄ってこないし、欲しいものも買えない。

 間違ってんだろ。


 あんな、何に使えるか分からない、くだらない勉強が出来ないだけで、何でここまで酷い目に遭わないといけないんだ。

 勉強が出来る奴なんてバカばっかりだろ実質。

 頭良さそうな奴見たことねえぞ。


 そんな風に俺がイライラしていたら。


 そこでもうひとりのツレのユーイチが


「……やっぱさ働いた方がよくね?」


 そんなことを言い出した。


「ろくな仕事ねえだろ!」


 反射的に言い返す。

 すると


「キレんなよ。そんなんだから何も変わんねえんだ」


 そう、なんだか余裕のある声で返された。

 ムカつくわ。


 こいつ、俺よりは学校のテストの点良かったから、たまにこう偉そうなクチをきいてくるんだよな。

 ボコってやろうかと思うけど、そんな真似すれば仲間が減るからな。


 我慢した。


 黙っていると、ユーイチは続ける。


「だから起業すればいいだろ」


「……起業?」


 きぎょうって何だ?

 俺は分からなかったから黙っていた。

 するとユーイチは続けたよ。


「この3人で会社つくろうぜ! ラーメン屋!」


 俺たちラーメンの味にはうるさいじゃん!

 ぜってー流行はやるよ!


 そう熱っぽく語る。


 ……ラーメン屋をやる。


 その夢は魅力的だった。

 当たって流行れば、きっとウン十億稼げる。

 そうなりゃ大金持ちだ。


 いいな……それ


「でもよー、そういうのカネいるんじゃね?」


「バッカ、銀行に行けば貸してもらえんだよ!」


 マサルの言葉にユーイチが応える。

 確か融資って言うんだよな。


 ガッコのセンコーは俺たちを評価しなかったけど、銀行の人間なら人の査定を仕事でしてるんだから、俺たちの実力は見抜けるはず。

 3億くらい貸してくれるはずだ。


 ……と、そんなことを語っていたら。



 獲物が見つかった。



 住宅街を離れた区域。

 開発地域で、建設中のビルが建ち並んでいる。


 そこにいたんだ。


 高校生の男女が。

 男の方は爽やかで清潔感のある格好で。

 背も高く顔つきも整っていた。


 ……ムカツク。


 女の方は肩に届く程度の長さ髪。

 そして金髪で、目が大きく。

 唇の薄い可愛い顔立ちで。

 スタイルが抜群だった。

 胸が大きいのが一番特徴的。

 スラリとしてて出るとこ出てる。

 夏っぽい白いワンピース姿だったが、思わず生唾を飲み込んだ。


 ……こいつら、恋人同士かな?

 なんか自動販売機の前で会話してるみたいだけど。


 まあ、どうでもいいけど。

 そうだったら気分良いし。

 そうでないなら、だからどうというわけでもなし。


「やるぞー」


 そうツレに声を掛け。

 俺たちは行動を開始した。


 車を素早く降り、男の方を持参したバットで殴り倒した。

 根性なしなのか、1発で黙った。


 こないだの奴は10発以上殴ってもまだ抵抗してきたのに。


 女の方は暴れたが、ナイフを目の前に突きつけたらアッサリ黙る。


 ちょろいな。


 女を奪い、ハイエースに戻る。

 そして車を出した。


 街中ではお楽しみは無理がある。

 山に連れて行かないとな。


 車を出した。


「すっげえチチでけえぞこの


「しかもアイドル並みに可愛いし! めちゃめちゃラッキーじゃん!」


 マサルとユーイチが大騒ぎしていた。

 気持ちは分かる。


 俺もさっきからアレがギンギンだし。


 ……早く山に着かないかなぁ!




 そして俺たちは山に到着した。

 アスファルトの道路の外は、モロ山。

 ホント、ワクワクした。


 これまでに何人かここに女を連れて来たけど、ここまでの上玉はいなかった。

 くぅ、ゾクゾクするぜ!


 ……女、なーんも言わない。

 諦めてるのか、怖くて声が出せないのか。


 最高だ!


 これだったら何でもさせられそうだ!

 何をしてもらおうかなあ!


 まあ、愉しむだけ愉しんだら殺すんだけどな!


 だから山なんだよ!

 終わった後に即埋められるからな!


 そのためのスコップは持って来てる!


「降りろ」


 命令はしたけど、聞かなかったら引き摺り下ろすつもりだった。

 車の中ではしない。


 そんなことをすれば車が汚れるし。


 生きてるうちしか歩けないから、ちゃんと埋めるところまで自分で歩いて行ってもらわんと。

 すると


「……わかりました」


 はじめて女が口をきき、ハイエースから自分で降りた。

 その両手を、ガッチリとマサルとユーイチに掴まれてはいたけれど。


 ああ、愉しみだ……


 これからこの女を使った、大人のレクリエーションを想い、俺はニヤつく。


 俺の頭の中はピンク一色だった。

 俺も参加しなきゃ。

 シートベルトを外し、俺も降車しようとする。


 ……だけど。


 パラパラパラッ。


 何かが撒かれる音がして。


 一瞬後


「ぎゃああああああ!」


 マサルとユーイチの悲鳴が響き渡った。

 何事!? と思ったけど。


 ……マサルとユーイチの手が片方、ズタズタになって5指を失っていた。

 アスファルトの路面でのたうち回って苦しんでいる。


 何だ……?

 何が起こった……?


 混乱する俺。


 あの女は……


 立っていた。

 その両手を眩く輝かせながら。


 え……?


 手刀のカタチになっているその両手。


 女はそのまま屈み、足下で苦しみ悶えている2人の足に近づき。


 ザンッ


 ……その片足を、足首の部分で切り離した。


「あぎゃああああああ!!」


 斬られた瞬間。

 マサルとユーイチの悲鳴は凄かった。

 こんな悲鳴、これまでの人生で聞いたことが無かった。


 そこでやっと気づく。


 ……逃げなきゃ!


 俺は降りかけた車に引っ込んで車を出そうとしたが。


 ……車が動かなかった。

 エンジンが掛かってるのに。


 何故だ!?


 ……俺は泣いていた。

 恐怖で。


 そのとき


 トン トン トン


 ……窓ガラスが叩かれた。

 そちらを、ゆっくりと見る。


 そこには……


 あの女が、いた。


 さっきまでは最高に美しく、可愛い女だと思っていたのに。

 同じ顏なのに、今は心臓が止まるほど恐ろしかった。


 その顔は言っていた。


 降りろ、と。


 ……従わないと殺される。

 それを俺は悟ってしまった。


 だから……


 ドアのロックを外し、自分でハイエースを降りた。


 外に出て分かったんだけど。

 タイヤが全部パンクさせられていた。


 ……エンジン掛かってても動かないはずだ。


 それを理解し、震えあがる。


 そこに


「そこの2匹のクズの足首の血を止めなさい。力いっぱい握ればできるでしょ」


 女の言葉。


 何で俺が!

 親父の紹介した会社だったらそう反射的に叫んでいた。


 けど。


 今は、これに従わないと即座に俺の身体の一部が無くなる。

 そんな予感があったので、即従った。


 大きな傷だから、出血が多かったけど。

 力いっぱい握ると多少マシになった気がする。


 そこで女は


「そうそう。良い感じ……そのままアタシの相方が到着するまで頑張ってね」


 コロコロと鈴を転がすような可愛い声で。

 俺にツレ2名の足首の止血を命じる女。


 ……なんで俺がこんな目に。


「……どうして?」


 そう思ったから、そんな言葉が出たんだ。

 その言葉を聞いた女は


 腹に手を当てて、ものすごく楽しそうに大笑いした。


 ひとしきり笑った後、教えてくれたよ。


「……あんたらが遊びで1週間前に殺したカップルの男の人がね、死の間際にアタシたちに有り金差し出して依頼したの。恋人の恨みを晴らしてくれって」


 え……?

 アイツ殴り殺したはずなのに……?


 あれで病院に担ぎ込まれるまで生きてたってことか?

 そんな馬鹿な……!


 でも、死の間際って……!


 混乱する。

 混乱する俺に、さらに衝撃の事実が伝えられた。


「ちなみに男の人、普段クレカ支払いで現金ほとんど持って無くてね……結果として依頼料1000円。あんたら3人まとめて……ね」


 1000円……!

 1000円で俺たちは殺されるのか!?


 そんな……!


「1万円……いや20万円出す! だから助けてくれ!」


 反射的に顔を上げて女を見た。

 必死だった。助かりたかった。

 だから女の顔を見て、頼んだんだ。


 そして戦慄し……俺は失禁した。

 小便が俺のズボンを濡らす。


「……は? そんなバッチイ金は1円も要らないんだけど?」


 女の表情は……人間の表情じゃ無かったんだ。

 表情だけで、化け物の精神が乗っていることが分かるかおだった。


 遠くにバイクのエンジン音を聞きながら、俺は待ち受ける地獄を思い。


 嗚咽を洩らして泣き始めた。

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