第2話 世の中間違ってるよ!

 ある日、私は決意しました。


 雄二君に手作り弁当を! 


 雄二君、昼休みはいっつもビスケットを2枚食べるだけなんですよね。

 色々ありましたけど、今もそう。


 はっきり言って、栄養的にメチャクチャです。

 糖分しか取れてないじゃないですか。

 カロリーさえ確保できればいいってもんじゃないですよね。ご飯は。


 でも。

 雄二君、無気力状態だったときの昼ご飯を、今も続けているんです。

 多分習慣化してて、急に変える気が起きないんでしょう。


 私、水無月優子は雄二君の彼女で、将来の妻です。

 夫の栄養管理はしなきゃですよね。


 ……と、言いたいところなんですが。


 私、料理をまともにしたことないんですよね。

 実は一回、やったことはあるんですが、食材が古くて、食べられないものができちゃいました。

 美味しいものを作ったことはただの一度も無いのです。

 あのときのダークマターは、私の歴史から排除したい事実です。


 あれは運が悪かっただけです。


 私の料理の腕が異常なわけが無いんです。


 ちゃんとしてれば、私だって!! 


 私は制服姿のまま、エコバックと財布を持って、スーパーに繰り出しました。




「えーと」


 地元のスーパー「マルイアイ」

 このド田舎での奥様が通う、安いスーパーです。


 売ってる食材はレベルが低めですけど、その日のうちに調理するならまぁ、問題は無いんで。

 買うならやっぱりここですね。

 まぁ、奥様方のつぶやきの受け売りですが。


 ここ、安いんですけど、食材の品揃え、わりといいんですよ。

 そこも良いところで。


 羊肉売ってますし。

 鯨肉もある。


 豚、鶏、牛しか買えない、大手スーパーと違うんですよ。


 で。


 確か、ラム肉って、健康に良いんですよね? 

 鯨肉も。


 高たんぱくで、低カロリーとか。


 ちょっとお高いですが、ここは彼の健康を考えてですね。

 買いましょうか。


 二つとも、専門店で食べたことありますからね。

 美味しかったし。


 これなら、間違いないでしょう。


 あ、あと。

 内臓系も健康に良さそうです。


 医食同源って言うじゃないですか。


 とりあえずレバー行っときましょう。

 牛のレバー。


 今は規制されてて食べられませんが。

 昔、生レバー食べさせてもらったことありますから。

 あれは美味かった。


 これも間違いないですよね。


 鯨肉、ラム肉、牛レバー。

 その他野菜を買い物かごに放り込み、購入。

 私はスーパーを後にしたのでした。




「さて」


 今日は大丈夫です。

 食材、全部新しいですから。

 半額品ひとつも混じってません。


 これで美味しくなきゃ嘘です。

 準備を整えた私は、戦果をテーブルに並べました。

 開けていくとしましょうか。


 私は肉を開封します。


 うわー。


 血まみれですねぇ。

 鯨肉。


 真っ赤です。


 でも、高たんぱくって感じです。

 見るからに。


 ラム肉。


 ぱっと見、牛肉とあまり変わんないですね。


 レバー。


 血まみれ。


 これはニラレバというやつにしてみようと思います。

 そのために、ニラを一束買いました。


 さて、やってみましょうか!! 


 私は制服の上からエプロンをつけて。

 私は材料を刻み、すべて塩コショウして炒めました。


 ……


 ………


「うわーん!!」


 私は泣きました。


 また、ダークマターが出来てしまったのです。

 それも、3つも!! 


 鯨の一口ステーキ


 ラム肉の野菜炒め


 ニラレバ


 テーブルの上に乗っている三品。

 皿に盛りつけられたそれは


 ……全部、臭い。

 臭くてとても食べれません!! 


 新鮮なはずなのに!! 

 どうして!! 

 どうして!? 


 私、やっぱりメシマズなの!? 


 あまりに悲しくて。

 私は、昔の仲間で、今も連絡をとっているゆりちゃんに電話してしまいました。

 数コールで出てくれました。


『なんですか? センパイ』


「ゆりちゃん、全部、臭いの!」


『センパイ、落ち着いてください。何が臭いんですか?』


「絶対美味しいはずなのに!!」


『いやだから、何が臭いんですか? 落ち着いて』


「……鯨と……羊と……レバー……の手料理。彼氏にお弁当作ろうと思って」


 あまりの悲しさで支離滅裂になってる私を落ち着かせてくれるゆりちゃん。


『……えーと』


 ゆりちゃん、ちょっと口ごもり。


『センパイ、ちょっと伺いますが』


「……何?」


『下処理、しました?』


「下処理って?」


『………』


 ゆりちゃん、沈黙。


 そして。


『センパイ、ちょっと言っていいですか?』


「何?」


『アンタ、馬鹿ですか?』


 ひどー!!! 

 後輩なのに先輩を馬鹿呼ばわりなんて!! 


 ゆりちゃん、信じてたのに!! 


 私が文句を言うと、ゆりちゃんは


『センパイが手を出した食材はですね、全部素人が手を出すべき食材じゃ無いんです』


『スーパーで売ってるからといって、何でもかんでも塩コショウで食べられるようになるとは思わないでください』


 ……そうなの? 


『ああもう!! その場に居ない自分がもどかしいです!!』


 ゆりちゃん、電話口ですごくイラついているみたいでした。


『センパイがそんなアホ丸出しのことをやるのは耐えられないんで、この際だからしっかり教えますね!?』


 ゆりちゃんは言いました。

 これから言うものを買ってくるように、って。


 土生姜


 大蒜(乾燥ものでも可)


 醤油


 料理酒


 キッチンペーパー


 おろし金


 タッパー(容量あまり大きくないやつ)


 牛乳


 しっかりメモを取ります。


『これを使って下処理というやつを教えます。しっかり覚えてくださいよ!?』


 材料が揃ったらまたかけてください、と言い残し、ゆりちゃんは通話を切りました。




 そうして。

 私はまた買い物に出かけ。

 失敗した鯨肉、ラム肉、牛レバー、各種野菜と一緒に。

 ゆりちゃんの指定したものを全部揃えてきました。


 エプロン姿でキッチンに立ち、スマホで電話し、ハンズフリー状態にして繋がるのを待ちました。

 また、数コールで出てくれます。


『揃いましたか?』


「うん」


『じゃあ、教えますね』


 まず、ラム肉と鯨からいきましょう。


 土生姜を、おろし金で摩り下ろして下さい。

 全部。あ、皮は剥かなくていいですから。


「わかった」


 言われた通り、ボウルの上で土生姜を丸々一個摩り下ろしました。


「できたよ。次は?」


 それを、キッチンペーパーを2枚ほど重ねた上にあけて、キッチンペーパーで包んで、絞って下さい。

 そのしぼり汁を、タッパーにあけてください。

 搾りかすの方は用が無いんで、捨てていただいて結構です。


「わかった」


 言われた通り、摩り下ろした土生姜を、キッチンペーパーで絞って「土生姜のしぼり汁」を作る。


『できましたか?』


「うん」


 搾りかすの入ったキッチンペーパーの包みをゴミ箱に入れ、次の指示を待つ。


『次は……』


 そのしぼり汁と同量の醤油、料理酒を混ぜてください。

 ちょうど1:1:1的な関係ですね。

 これで下処理用の漬け汁の完成です。


 そこに鯨肉とラム肉を漬け込むんです。

 時間は30分もやれば十分だとは思いますが、不安ならもう少しやっても問題ないですよ。


 あ、鯨肉は漬け込む前にフォークで突き刺して、肉の中にしみこむ穴を空けといてくださいね。


 これが終われば、後は普通に焼くだけです。簡単ですよね。


「なるほど……」


 こんなことで、あの臭いのが食べられるようになるの? 

 ゆりちゃんが言うなら間違いないとは思うけど、俄かには信じられなかった。


『では次は、レバーに行っておきましょう』


 レバーは、まずは洗ってください。

 食べやすい大きさにカットしてから、ですけど。


 水で、できれば流水で、ある程度水が澄んでくるまで洗うんです。


 で、そのあと牛乳に漬け込んで下さい。

 これも約30分です。


 それが終わったら、牛乳を捨てて……え? 飲んだらダメなのか? ダメに決まってるでしょう!? 臭い成分を吸着してるから、料理にも使えませんよ!! 

 環境が気になるなら、後で庭にでも埋めたら肥料になりますよ! 


 ……脱線しましたね。

 牛乳を水で軽く洗い落として、それをキッチンペーパーの上に並べて、水気を吸い取ってください。

 キッチンペーパーを変えながら、3回も吸い取ればもう大丈夫です。

 後は塩コショウして刻んだ大蒜と混ぜ合わせて下味をつけ、30分放置したら下処理完成です。

 これで普通に炒めるだけで食べられます。簡単ですよね。


『分かりましたか?』


「これで、本当に臭くなくなるの?」


『なりますよ。ま、やってみればいいでしょう。すぐに分かりますから』


 やってみた。


 ジャジャア、と炒めて、ジュジュジューと焼いてみた。


 鯨肉は普通にステーキを焼くみたいに塩コショウして焼いて。

 ラム肉も普通に野菜炒めにし。

 レバーもニラと一緒に塩コショウで炒めてみた。


 すると。


「あ、美味しい」


 試食で箸で摘み、ひとつ口に入れたら、ビックリ。


 全然違いました。

 全然臭くないし、むしろわずかに残った臭みが、独特の風味に感じられて、美味しく感じられました。

 すごい。こんなに変わるんですね。


『ほらね?』


 電話の向こうのゆりちゃんのドヤ顔が見えるようでした。

 ビデオ通話じゃ無かったけど。


『これが料理ってもんなんですよ。ひと手間加えるだけで、食べられないはずのものが食べられるようになるんです』


 ……ぐうの音も出ないな~。

 こんだけ見事に結果を見せられたら。


 思えば、あのときの女子高生も、そういうスキルを身に着けた子だったんだろうなぁ。あの、魚のアラを買い込んだ女子高生。

 もう、すごい美少女だったという情報しか容姿に関しては頭に残って無いですけど、確かあの子、婚約者が居るんでしたよね。

 ……奥様修行の一環で、そんなスキルを身に着けたのかな? すごいな。尊敬しちゃいます。


『これからは、料理する前に調理法を調べてください。こんなの、今の時代ちょっと検索したらすぐ出てきます』


 ……ハイ。猛省します。


『それじゃ、今作ったのを、粗熱とったら冷蔵庫に入れて保管してください。明日の朝、レンチンして、弁当箱に詰めて持っていけばいいんじゃないですかね? それでは』


 そういって、ゆりちゃんは通話を切ってしまった。

 ……なんだか、最後の方ちょっと嫌々っぽかったのは気のせいかな? 



 ★★★



 私は、センパイとの通話を切った後「敵に塩を送ってしまった」的な、後悔にも似た感覚を味わっていました。


 センパイを堕落させたクソ男に、手作り弁当なんて作ってあげなくていいでしょ!? センパイ!! 


 でも、ここで嘘を言って唆して、センパイをわざと失敗させて破局させる……

 それは違うと思ったんです。


 食べ物関係で嘘を言うのは許されないと思うし。

 それに、正当な叩く理由も見いだせていないのに謀略に走るのもどうでしょうか? 


 ……まぁ、内臓料理は好き嫌い別れますし。

 あのニラレバは美味しくなってるはずですが「俺、ニラレバ嫌いなんだよね」といって弁当を投げ捨てる! 


 これは十分ありえることです。

 もしそんなことを言ってセンパイが泣いていたら、そのときは「そんな彼氏、金属バットで殴りつけてお別れしましょう」って言ってやります! 

 本性を現してからですよ! 


 ……あ。


 そろそろチャットの時間ですね。


 そろそろ、あのチャットに人が集まる時間帯です。


 私は、チャットをしていまして。

「都会で勤務する大手探偵事務所の所員」って設定で会話に参加してます。

 UGNの仕事をぼかしてグチるにしても、リアル年齢の中二だと不自然で意味が通らなくなるので。


 ハンドルネームは「リリィ」……本名からの連想ですね。


 ……アイアンメイデンさんにグチ聞いてもらお。


 私はパソコンのスイッチを入れてチャットに繋ぎました。


『こんばんは』


『あ、リリィさんこんばんは』


『どうですか? その後の相方さんとの関係は?』


『ん~、変わらないねぇ。まぁ、彼とはずっとそういう関係だから~』


 このアイアンメイデンさん。

 どこかの県の県庁所在地に住んでるOLらしく。


 まぁ、東京ほどではないにしろ、都会の人、らしいです。


 東京には、今まで一回しか行ったこと無いそうで。その一回も、仕事のついでだとか。

 そのときに仕事の相方(男性だそうで)と一緒に東京を見て回り。

 とても楽しかったよ、と思い出を語っていました。


 で、その口ぶりから相方さんって、アイアンメイデンさんの彼氏か何かなのかなと思ったら。

「違う」って言われて。「付き合う気はあるんですか?」と聞いたら「無いかな。色々事情あるんだよ」って。

 好きか嫌いかで聞いたら「大好きに決まってるじゃん。男の中では一番好きだよ」って言ったのに。


 ……どういう事情なんでしょうか? 

 アイアンメイデンさん、良い人だから、きっとその男性も良い人に違いないと思うんですけど。

 一回「遊ばれてるのでは?」的なことを臭わせるようなことを言って、「そんなわけないじゃん。彼、私に指一本触れようとしないのに」って笑われましたし。

 多分、相手の男性本当に良い人なんでしょう。おそらく。


 なのに、アイアンメイデンさんを幸せにしようとしない。

 相方さん、私と同じ性的嗜好なのかなとちょっと思って、それとなく聞いたら、否定されましたし。

「絶対違う」って力強く否定されました。


 謎です。


 でも、幸せになって欲しいなぁ。

 こんな女性が幸せになれないのは、絶対間違ってると思うし。


『リリィさんは今日、何かあったの?』


『あ、見抜かれましたか?』


『リリィさんがアタシと相方の関係性について尋ねるときは、大体何か相談事があるときだから~』


 アイアンメイデンさんは優しくて、人の気持ちが理解できる人です。

 だから、会ったことは無いのですが、私はこの人に好感を持ち、敬意を抱いていました。

 ただま、女の不貞行為に関しては異常なまでに敵意を持ってらっしゃるみたいなんで、そこは気をつけてますけど。

(ひょっとしたら逆鱗に触れてしまうかもしれませんからね)

 多分、何かあったんでしょうねぇ。理由、気にはなりますけど、それ自体逆鱗の可能性ありますし。

 ちょっと、聞けてないですし、聞けませんよ。


『実は、前にお話しした、地方に飛ばされたセンパイの話なんですが』


『ああ、あの、部署の大失敗の全責任を負って地方に行ったっていう、責任感強いセンパイさんの話?』


『ですです』


『そのセンパイさんに何かあったの?』


『……実は……そっちで彼氏が出来たそうで……』


『良かったじゃん』


『良くないですよ。きっと、センパイは初めての恋愛で、騙されてるんだと思うんです!』


『どうしてそう思うの?』


『だって、「地方に飛ばされて良かった!!」って左遷されたこと喜んでるんですよ?』


『そのくらい、相性ばっちりでいい相手に巡り合えたのかもしれないじゃん』


『アイアンメイデンさん……』


 アイアンメイデンさんはちっとも同意してくれませんでした。


『もちろん、そういう可能性もあるんだけどさ。リリィさんはそういう相手に巡り合ったことは無いのかな?』


 ……あります。

 それが、センパイです。


 私と息ぴったりで、支えてあげたくなる。

 そういう人で、ずっと一緒に生きていきたいと思えたのが、センパイでした。


 もちろん、そんなことをアイアンメイデンさんには言えませんけどね。

 最近、カミングアウトする人増えましたけど、軽々しくやるのはやっぱ抵抗ありますから。

 カミングアウトしたら、今の状態が崩れるかもしれませんし。


『ありますけど……』


『だったら、そういう風に思ってあげようよ。もちろん、明らかに変……例えば、生活が乱れてるとか、急に変な格好をしだしたとか、整形し始めたとか。異常行動が見えたらそれを疑うべきだとは思うけど』


『そのセンパイ、リリィさんにとっては大事な人なんだよね? だったら、まずその人が選んだ相手を否定するところから入るのは良くないんじゃ無いかな?』


 ……アイアンメイデンさんの言葉は、ぐうの根も出ない正論だと思いました。


『相性のいい相手ってのは、何物にも代えがたいもんだと思うよ。アタシの場合、相方がそうだし』


 ノロケ入りました! そこまでノロケるのに、何故か彼氏でも何でもないと言い張る謎。

 一体、どういう事情でそうなってるんですか!? 


 ここまでくると、アイアンメイデンさんは実は男性で、私と同じ宿命を背負った人なのではないかと疑うところですけど、私のノイマンの直感が「彼女は女性」って言ってるんですよね……

 ノイマンの直感、馬鹿にしたもんじゃ無いので。これはエフェクトの一種ですから。


 すると。


 ~~~コトさんが入室しました~~~~


 もう一人のチャットの常連の、コトさんがやってきました。

 この人は、わりと田舎在住の人で、諸事情で弟さんとほぼ二人暮らしなんだとか。

 何でそうなのかは、ちょっと聞いてはいけない雰囲気でしたので、知りません。


『こんばんは』


『こんばんは』


『こんばんは』


 挨拶を済ませると、コトさんが発言しました。


『アイアンメイデンさん。弟の彼女ですが、良い子でした。正義感強くって、弟の内面を良く見てくれる良い子で』


『……そうなんだ。心配してたから。良かったじゃん』


 おや、その話、私は知らないですね。

 何があったんでしょうか? 


 話を見守ると、どうもコトさん、弟さんに彼女が出来たらしく。

 先日、家に連れてきて紹介されたらしいんです。


 で、その弟の彼女が牝豚……男を食い物にし、恋愛を娯楽と捉える人間のクズ……じゃないか見極めたと。

 そして慎重にジャッジして、どうもその疑いが無かったから、今日、アイアンメイデンさんに報告したそうで。


『良い女と巡り合えるのは最高に幸せなことだと思うんだよね。ちゃんと苦しくなっても支えてくれそうな良い人に巡り合えるのはさ……』


『だから、女は、男のきょうだいが彼女を連れてきたら、まずは牝豚を疑ってあげないとね』


 それが姉弟愛ってもんだよ。


 ……さっき、私に言ったことと、だいぶ違いませんか? 

 私の場合は「大事な人が選んだ男だからまず信じてあげようよ」

 コトさんの場合は「きょうだいのために、きょうだいが選んだ女が牝豚じゃないか見極めろ」


 ……ホント、女にメチャメチャ厳しいです。

 アイアンメイデンさん、決してクズ男を容認しているわけじゃないんですけど。

 女はまず疑ってかかれと言ってますよね。


 こんなところからも、男性疑惑が湧きそうですけど。

 私の直感は「彼女は女」って言ってるんですよ。


 ホント、謎です。

 過去に、そういう女に酷い目に遭わされた経験でもおありなんでしょうか? なんだかそんな気がします。


『ホント、良い子を彼女に選んでくれたと思うんです』


 コトさんは言います。


『弟と結婚する気になってくれてますし、これでウチの家の男系男子は安泰です!』


 ……えっと。

 確かコトさん、高校生でしたよね? 


 その弟さんだから、それ以下のはず。


 ……なんか、痛すぎませんか? 

 その弟さんの彼女? 


 ひょっとしたら、メンヘラなんでは……? 


 ちょっと、思いました。

 高校生以下で、いきなり結婚考えるなんて。


 異常です。


 ……大丈夫なんでしょうか? 


『で、弟が付き合って一か月も経つのに、未だに手も繋ごうとしないし、無論キスもまだなのが不満、って私の義妹が言うんですけど』


 ……ちょっとちょっと! 

 コトさん、洗脳されてません? 


 その女、ちょっとやばいかもしれませんね。


 ……異常者って、異様な魅力あるそうですし。

 ひょっとして、コトさん、やられてしまったんでしょうか? 


『……うーん。結婚かぁ……アタシも14歳のときに考えたなぁ……』


 アイアンメイデンさん、特に疑問無し。


 ……この場でまともなの、私だけなんでしょうか? 


『弟さんに言ってあげたら? 彼女さんのサインを見逃さないで、って』


 いやいやいやいや。


 そんな異常な女に手を出したら、後でどんなことになるかわかりませんよ? 

 止めてくださいよアイアンメイデンさん!!? 


『そうですね……ちょっとそれとなく言ってみます』


 うわーーーーー!!!! 

 ちょっと、取り返しのつかない現場にいるかもしれません! 


 かといって、ここで私が声をあげても、聞き入れてもらえないばかりか、ここのチャット出禁になるだけですし。

 ……何も、変わりませんよね。


 指をくわえてみているしか、出来ないんですね。


 ……コトさん。ごめんなさい。

 私は、弱い子です。


 ……なんだか、いたたまれなく成ってきました。


『すみません。話の途中ですけど明日ちょっと早いんでこれで』


 私はそうお断りして、その日はチャットを落ちました。


 パソコンを切り。


 部屋で一人になり、私は固まりました。


 ……センパイのオトコも気になるけど……


 コトさんの弟さんの彼女も、気になるよなぁ……


 コトさんの話を聞いた限りじゃ、あまりまともな人間だと思えないし……


 コトさん、ちょっと天然なところあるから、弟さんが連れてきた女が変なのに気づいて無いのかもしれないなぁ……


 ……どうして、良い人がこんな厄介ごとに巻き込まれるんだろう? 

 世の中、間違ってるよ……! 


 私は、知り合いに降りかかった不幸が、なるべく酷くしないで通り過ぎてくれるように祈りました。

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