本編

第1話 弟が彼女を家に連れてきた

「雄二君、今度のお休み、都会のペットショップ行かない?珍しい動物が販売されてるらしいから。見に行こうよ。雄二君、そういうの好きだよね?」


学校帰りに彼女……水無月優子は嬉しそうにファミレスで机の上に地図を開いて俺に示してくる。

電車で8駅ほど行った先にある、この辺ではちょっとした都会に店を構えている大型ペットショップ……それを示して。



確かに好きだけど。


俺は、犬猫ハムスターはあまり好きじゃ無いんだけど、あまりペットとしてなじみが無い生き物は結構好きだったりする。

蛇やカエルなんて、1時間くらい見ていられるくらいだ。

だって、新鮮で面白いだろ?

犬猫ハムスターなんて、黙ってても皆さん動画等上げまくってくるから、珍しくもなんともないし。

いやま、犬猫ハムスター好きな人を攻撃するつもりは無いんだが……。一応。


だけど。


……なんか、俺の彼女になってくれたこの子……目が綺麗で長い髪を三つ編みにしている眼鏡の可愛い女の子……やたらとピンポイントでそういうところを突くデートプランを提示してくるんだよな。

それくらい、俺のことを見てくれてるってことなのかもしれんけど。


……うーん。


これ、正直、言っていいもんかどうか迷うんだが。


なんか、情けない。

男として。


無論、彼女のことは好きだし、色々あって深い絆のようなものを感じてはいるのだけど。

こうも完全に終始リードされて、しかも的確に俺を満足させるようなデートプランを立てられると……

しかもなんだ、俺を満足させることを主眼に置いてる気がする。

本当にいいの?ちょっと離れた都会のペットショップ見に行って、帰ってくるだけの内容で?

多分、ムードとかいうの無いと思うよ?自分を犠牲にしてない?


これはワガママなのかな?


なんかここで「楽でいいじゃん!」って言ったらいけない気がするんだよな……


「どうしたの?」


そんな思考に沈んでいると、水無月が俺を見つめて、そう聞いてきた。


「あ、ごめん。ちょっと意識飛んでた」


ひょっとしたら俺がワガママなことを考えている間に、水無月が何か重要なことを言ったかもしれない。

だとしたら、申し訳ない。


謝罪したら、彼女は別段気を悪くした風もなく


「ここのペットショップ、珍しい陸生エキゾチックアニマルだけでなく、ピラニアだとか、淡水エイだとか、そういう珍しい水生生物も販売してるらしいんだ。見ごたえあると思うな。あと珍しい昆虫も見れるみたい」


おそらくさっき言ったんであろうことをもう一回復唱してくれた。


こういうところも、なんだか委縮するというか……

何でここまでしてくれるの?というか。


なんかもう、騙されてるレベルじゃない?


これが水無月でなければ、ハニトラを疑うレベル。

俺を騙してどうするつもりだ!?って。


「……あのさ」


俺は意を決した。

とりあえず、言わなきゃはじまんないよな。


「なにかな?」


「……水無月は……無いわけ?何か、その、やりたいこととか……」





きた。

きましたよ。


やりたいことと来ましたか。


本音を言えば入籍ですけど、それはまだその段階に来てませんからね。

ここでそんなこと言い出したら確実に引かれますし。何言ってんだこの女、って感じで。


彼に関する情報を持ってる私の方がガンガン誘っていけば、何かしら進展があるのではと踏んでいたのですが、目論見通りに行ったようですね。

絶対そのうち耐えきれなくなって何かしらリアクションを起こしてくれるはずだ、って。


それは不器用なりに彼がデートプランを考えてくれるのかもしれないし、今回みたいに私の要望を確認に来るのではないかと踏んでいたのですが。


要望?そりゃもちろん、ありますよ。

現実的なところでは


まず第一に、こっちがガンガン名前呼びしてるのに、雄二君まだ苗字呼びです。

無意識にやってるわけじゃなくて、単に踏ん切りがつかないだけだと思います。

そこまで踏み込んでいいかどうかの決断ができないんでしょう。


雄二君は土壇場のときの決断力は凄い人ですけど、こういうときはダメですね。

私のことも名前で呼んでくださいといえば解決できると思うんですが、それはダメなんですよね。

できれば彼の意思で決断して欲しいので。


第二に、まだお義姉さんを紹介してもらってません。

はやく、北條家公認の弟の彼女になりたいのに。

約束してくれましたよね?


第三に、まだキスどころか手すら繋いでいません。

まぁ、正確には一回すでに繋いでいますけど、それはまぁ、なりゆき不可抗力でしたし。

でも、交際宣言してそろそろ1か月経つんですから、手ぐらい繋いでもいいんじゃないですか?


第四に、雄二君の好みの髪型やら眼鏡の着脱の有無の是非やら、教えてくれません。

聞いても「水無月の気に入る形でいいと思う」としか言ってくれなくて。

私、外見でもできるだけ雄二君の一番になりたいんですけど。


この中で要求できそうなのは、2番ですかね。

現実的なところでは。


ご挨拶に行きたいですよ。

そろそろ。


義妹ポジが欲しいので。


「あるよ」


だから、言いました。


「雄二君のご家族に紹介して欲しい。そろそろ1か月経つよね?」


告白してもらってから。

ニコニコ。




(きたか……)


俺は正直そう思った。

先延ばしにしてきたことを、決断する時がやってきたか、と。


別にね、忘れてたわけじゃないんだ。

たださ。


(姉さんがどう思うかが、土壇場で気になってしまったんだよな……)


ただでさえ姉さんは先月親友の大林さんを亡くしているのに。

問題の事件は解決したとはいえ、その傷は癒えていないはず。


その状況で「俺の彼女。水無月優子さん」って言ったら。

どんな反応をするか……?


「雄二、こんなときに彼女を作るなんて。お姉ちゃん、雄二がそんな自分勝手な子だとは思わなかった!」


そんなこと、言われやしないか?

……しないだろう、とは思いたいんだけど。


もし言われたら、水無月、立場無いよなぁ。俺も無いけど。


……100%の確証を持てないことに、水無月を連れて行くのって……


うん。


しかし。


ここは、決断するべきところのはずだ。

確証が持てずとも、決めなきゃいけないことってあるはずだよな。


俺はこの前の戦いでそれを教えてもらった。

うじうじ、決断を遅らせていたら、俺の今のこの状況は無いはずだ。


あのとき、放火する決断して無けりゃ、あそこで俺ら、全滅して死んでたんだから。


ここは腹を括るしか。


「分かった。じゃあ明後日でいいかな?」


とりあえず、ここは約束だ。

俺は、明後日の放課後に、家に彼女を連れて行くことを約束した。


……で。


その日の夕食の時。


買ってきた惣菜やら、作り置きのみそ汁やらで、炊飯器のご飯を主食に、姉弟二人でテーブル囲んで夕食しているとき。


俺は姉さんに言った。


「姉さん、明後日の放課後、なるたけ急いで帰ってきてくれるかな?」


言われた姉さんは、食べ物を飲み込んで「なんで?」と言って来た。


さて、いよいよだ。

まず、最初の決断。


深呼吸して、口にした。


「……実は、彼女が出来たんで、紹介したい」


聞いた姉さんは「え?」と短く言った。


「本当?」


「今日は4月1日じゃないから」


よし、言い切った。

さて、どうなるか。


俺の心がざわつく。姉弟仲がガタガタするのは俺だって嫌なんだ。

どうか、穏便に済みますように……


「……どんな子?」


「優しくて、強い子」


「可愛い?」


「うん」


「……そう」


そこまで言った後、姉さんは席を立ち。

仏壇に行って、おりん……俗称チーン……を鳴らして手を合わせた。


多分兄ちゃんに報告してんだな……


それほどの事件なのか……。




その日、私は弟に「彼女が出来た」と報告を受けた。

そういえば、おかしなところはあった。

一時期、やたらと帰ってくるのが遅くなる時期があったから。

あのくらいから、付き合いはじめていたのかもしれない。


どんな子だろう?


弟は、可愛い、強い、優しいって言ってたけど。

信じていいものだろうか?


……私は、最近ネットで知り合った、女のジャッジに定評がある(自称)女性・アイアンメイデンさんに相談することにした。


この時間帯だと、多分アイアンメイデンさんはチャットに居るはず……。


ネットに繋いで、お気にいりからチャットのURLを呼び出すと、居た。


『こんばんはアイアンメイデンさん」


『あ、コトさんこんばんは』


『実は相談したいことがありまして。よろしいでしょうか?』


『どうぞ?』


『実は、弟に彼女が出来たようで、明後日の放課後にウチに連れてくるらしいんですが』


『うん。それで?』


『姉として、どういう対処をすればいいかな?って』


『まぁ、どんな女かはジャッジしてあげた方が良いかも』


……ですよね!?


姉として、女目線で女をジャッジしてあげないと。


『どこらへんに気をつければいいでしょう?』


『うん。まず恋愛体質は避けた方がいいかな』


……いきなりわけのわからないことを言われた気がした。


『恋愛体質、だめですか?』


『だめだよ~。それはさ、この人だから、じゃなくて、一番自分を良くしてくれるから、だから』


それは裏切るってことだよ~、とアイアンメイデンさんは言った。

つまり、自分に一番尽くしてくれる、気分良くしてくれるから好き、ってことは、それ以上に尽くしてくれたり、気分良くしてくれる相手に出会ったらアッサリ裏切ると。

そういうことを言ってるのかな?アイアンメイデンさんは。


『牝豚は避けなきゃ』


『太ってたらダメってことですか?』


『違うよ。牝豚ってのは、そういう心が豚同然の、ゴミ女のことだよ~』


牝豚は、平気で不倫したり浮気したり、二股三股かけてくるからね。

そういうのは付き合うだけ無駄だから~。


でなきゃ、弟さん、将来最悪自分の子供じゃない子供を育てさせられることになるよ?


……それは困る。北條家の男系男子が絶えてしまう。

姉としてそれは見過ごせない。


『牝豚を見分けるにはどうすればいいんでしょうか?』


『イケてるとか、私を引っ張って欲しいだとか、何々してくれるだとか、私を一番見てくれるからとかが男を選ぶ基準だったら、危険だから避けた方が良いね』


アイアンメイデンさんの断言口調。

私は圧倒されていた。


これが、アドバイスってものなのか。

分かりました。肝に銘じることにします。


私は丁寧にお礼を言って。チャットを閉じた。



そして当日。


弟が、我が家に彼女を連れてきた。


「姉さん、この子が俺の彼女」


「こんにちは。お義姉さん。水無月優子と申します。よろしくお願いします」


ぺこり。

玄関で、私に頭を下げてきた、眼鏡の三つ編みの、制服姿の女の子。

確かに可愛かった。ぱっと見、大人しそうな感じでもある。

笑顔もステキな感じ。


でも、人は見かけによらないものだ。


雄二は初めてできた彼女で盲目になってるかもしれない。

私が、キッチリジャッジしないと……!!


果たしてこの子は、牝豚か否か……!?




この人が、雄二君のお姉さん。

将来、私の義理の姉になる人ですね。


第一印象は、すごく大人しそうな人でした。

背丈は私と同程度でしょうか?

髪の毛を左右で括っており、すごく似合ってます。


……まぁ、本当は別に今日はじめて会うわけじゃないんですけどね。


個人ではだいぶ前に写真を入手してますし、UGN的公式にはこの間のジャーム騒動で、お義姉さんはご存じないですが、顔は見てることになってるんで。

でもま、公式の公式では今日が初顔合わせですし。

それに相応しく振舞わないと。


まずは、挨拶。

第一印象、大事ですし。

愛想よく。


「……北條琴美です。雄二の姉です。弟と付き合ってくれてありがとう」


お義姉さんは、そう言って礼をしてくれました。




……さて、どう出るかな?

とりあえず、無難だと思う行動をとったけど。

これにどう出てくるかな、この子。


なるべく顔に出ないように、緊張しながら私は頭を下げた。

この子の、弟の彼女の反応を注視しながら。




ああ、見てます。

お義姉さん、見てます。

私の事、ジャッジされてます。


ご姉弟、仲いいですもんね。

気になりますよね。


嬉しいです。

無関心よりずっといいし、合格すれば家族への道まっしぐらですよ。


上がりたいですが、許可が出ないと無理ですね。

図々しい女と思われたくありません。


雄二君、お願いします!


ちらり、と彼を見ました。


気づいてくれたのか、雄二君は言いました。


「水無月、上がって」




あ、今、この子。

弟に命令した。


私は気づいてしまった。

目くばせして、弟に「上がって」の一言を言わせたんだと。


心が通じ合ってるという見方もできるのかもしれない。


だが、私は、別の懸念を抱いてしまった。

それは、この子が弟を所有物のように扱っているのではないかと言うこと。


これは、牝豚認定としてはかなり危ないのではないだろうか?


……どうしよう。この子が牝豚だったら……!?




許可が出たので、私は靴を脱いで、上がらせてもらいました。

当然、お義姉さんにお尻を向けるような失礼はせず、正面を向いて靴を脱ぎ、上がってから靴を脇に寄せました。

これが作法ですよね?

うろ覚えですけど。




この子は牝豚かもしれない。

そう思い、一瞬不安になった私は、この子の靴の脱ぎ方を見て、胸を撫で下ろした。

丁寧にやってる。作法的に本当に正しいのか自信は無いけど、私に気をつかってくれてるのが伝わってきたから。

私に敬意を払ってくれるってことは、弟が大事だからそうしてくれてるってことのはず。

じゃあ、大丈夫なのかな?


弟と一緒に廊下を歩きながら、この子を家族の居間に通した。

我が家の聖域。


テーブルの椅子を勧め、座らせる。

私は言った。


「何か飲む?コーヒー?紅茶?」


「あ、では紅茶をいただきます」


私が席を立つと。


「あ、姉さん、俺がやる」


弟が席を立った。

チャンス!

私は言った。


「確か、二階の母さんの部屋に、クッキーの箱があったはずだから、そっちを取ってきて」


「分かった」


これで、ちょっと時間が稼げるはず。

弟がいなくなると、私はコーヒーと紅茶の準備をしながら、聞いた。


「いつから付き合ってくれてるの?」


「弟のどこが好きになったの?」


「どのくらい好き?」




おお……


お義姉さんに、恋の質問ラッシュをかけられてしまいました。

このために、さっき雄二君にクッキーを取りに行かせたんですね?

こういうの、はぐらかすのは良くないですよね。

真剣に、答えないと……。


まず一つ目。

1か月。

私的には片思い期間も加えたいところですが、そこは世間の一般常識から外れてますし。

ここは1か月でいいでしょう。


二つ目。

本音を言えば、顔でした。最初は。

あと体格。ガッシリした人が好みなんで。

でも、今は、全部好きと言って差し支えないですね。

ただま、それを正直に答えてしまうと、真面目に答えてないと思われるか、媚びて適当に言ってると思われそうですし。

やっぱ「決断力と、自分を抑えらえれるところ」って言うのが無難ですかね。

実際、雄二君に一番魅了されたの、そこですし。


三つ目。

結婚したいと思ってます。

これは今はまずそうですけど。どうしましょう?

世間一般で、付き合って1か月でそこまで行くのはどうなんでしょうか?

いやま、私の場合一年間ずっと見てきた実績があるんで、問題ないと思うんですけど。あくまで私的には、ですが。


……あ!


そうか。良いことを思いつきましたよ!?

ちょっと、恥ずかしそうに言うんですよ。

「結婚したいと思ってます!」って。馬鹿にされるだろう、っていう風に。

で、気が早いのでは?と言われたら「実は……」と片思い期間のことを話す!


これ、どうですか!?

お義姉さん的に、印象良くないですか!?


これで行きましょう!




「一応、一か月ですね」


「土壇場での決断力と、あと、自分を抑えられるところでしょうか?」


「……正直、結婚して欲しいくらい好きです」


……これは、どう考えるべきなのかな?


まず期間。

1か月ということは、ちょっと外れるから。

あのときとは、一時期弟の帰りが遅くなった時期とは外れるから、関係ないのかな?あれは。


土壇場での決断力?自分を抑えられる?結婚して欲しい?


あの子、そんなに我慢強かったかな?

自分を抑えられるって。

ひょっとしたら、この子と付き合うようになって、変わったのかもしれないけど。


結婚して欲しい?

……この子、本気で言ってるの?


あ、ひょっとして……


この子にとって、結婚って、そんなに簡単に決められるもの……つまり、軽いってこと?

軽いものは、簡単に潰せるよね?つまり、簡単に裏切る!


ひぃぃぃ、牝豚の危険が!!


土壇場の決断力?


それはつまり、強引なところがいいってこと?

あの子、そんなところあったんだ……?


でも、その嗜好は危険よね。

牝豚の特徴らしいし。


あぁ……まずい。

この子、牝豚かもしれない。


牝豚因子が2つもある……。

こんなに可愛いのに。


いや、この場合、可愛いからタチが悪い。


私の顔から血の気が引いていく。


……い、いや!

まだ早計!ここで認定を出すなんて!


私は確かめることにした。


「……強引な人が良いの?決断力がある人が良いってことは」




ん?んん?


どうしてそうなるんですか?

私、強引な人が良いなんて取られること言いましたっけ?


あ、でも。

土壇場での決断力って、言われてみればそうかもしれないですね。

すぐに決めなきゃいけないときに、素早く決められるってことですし。


それに、あのとき、あのハンバーガー屋さんで、強引に手を引っ張られて連れ出された時は嬉しかったし。


「ん~~、ひょっとしたらそうなのかもしれませんね」




認めた~~~~~!!!!

どうしよう。私、この子を追い出す努力をしなきゃいけないの?

……私に、そんなことできるのかな……?


弟にも恨まれるかもしれないし、この子が逆上して襲ってくるかもしれない。


でも……


将来的に、弟の子供と称されるものが、血縁上私の甥姪じゃなかったです、なんて事態、絶対嫌だから……


ここは歯を食いしばって、頑張るしか……!!


私は、覚悟を決めようとした。




しばらく、間が空きました。


おや?

結婚の意思については質問無いんですか?


……ちょっと、嫌ですかね。

軽い気持ちで言ってるって思われるの。お義姉さんに。


……ちょっと、不幸自慢みたいでみっともないからしたく無いですが、しょうがないですね。


「私、諸事情で家族居なくって、一人で暮らしてるんです」




……え?

私は「悪いけど、水無月さん。私、あなたを信用できない」って言おうとして。

いきなりそんなことを言われて、私は固まった。


……家族が居ない?


困惑する。明るい感じの子でもあったから、あまりそういうイメージ無かったから。


「私、1年前にその諸事情でこっちに転校してきたんですけど、そのときに、一目で雄二君を気に入って……ゴメンナサイ。実はちょっとさっき嘘を吐いていたかもしれません。雄二君に言わないでくださいね。最初のとっかかりは、外見です」


小さく微笑んで。笑い方が、可愛いと思ってしまった。


「で、気になったから、彼のことを聞いたんです。皆、腫物か何かのように扱って、関わろうとしないんで、分からなくて。で、聞いたら、悪評ある人間だから関わるな、みたいなこと言われました」


ちょっと、言い辛そうに。


「でも、その悪評の内容聞いたら、雄二君全然悪くないじゃないですか。ただ、やられたのが人気者と称される人物だった、ってだけで。相手の方が人気あったからって理由で、それで白が黒になるのに本当に腹立って」


……ああ、あのときの、お兄ちゃんの事件のときに、付随して弟が起こした暴行の話か。

あの話、この子知ってるんだ……


で、怒ってくれたんだ……


やだ……この子すごくいい子じゃない……


「で、腹立つと同時に、暴行するほど激怒した雄二君、家族愛強いんだなぁ、って思って。彼の家族になりたいなって思って」


普段、全然暴力的じゃないですからね、と付け加えてくるこの子。


「で、今に至るんです」


私は、崩れ折れた。

牝豚だなんて思って、ごめんね!!




あんなところにクッキー置いたら見つけにくいでしょ。

文句を言いつつ階段を下りる。


ようやく、クッキーの箱を見つけて俺が二階から戻ってくると。


何故か水無月と、姉さんがすごく仲良くなっていた。

すでに二人は紅茶でお茶しており。会話を楽しんでいた。

そして姉さんが戻ってきた俺に気づいた。


「雄二」


姉さんが真顔でこっちを見てくる。


「優子ちゃん、義妹に決定したから」


愛想つかされたら、お姉ちゃん許さないから。


いつになく、強く、真剣にそう言われた。


……一体、何があったんだ?


水無月はニコニコしていた。

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