第16話 違和感の正体

「ドラゴンスレイヤーか、部屋にありましたよ」

「部屋にあった? なんでドラゴンの家にそんなものが?」


 まさか自宅にあるだなんて思いもよりませんでした。

 そんな大切なこと、そもそもなぜ初日に言わないの?


「夫の持ち物です。先代の国王から譲り受けたと聞いています。なんでも契約の証だとか」

「それはどこにあったんだい?」


「寝室にあったはずです」

「詳しい場所は分かりますか?」


 昨日の捜索でそんなものはもちろん見つかっていません。


「本棚の中にひときわ大きな本がある。その中に隠してある」


 なるほど隠してありましたか。


「旦那さんは最近戦闘力が弱くなったりしていたか?」

「いや。強さは変わっていない」


「この方はご存知ですか?」


 警備兵長のクライスの写真を見せます。


「知らぬ」

「えっ?」


「5日前に電話しませんでした?」

「そのような覚えはない」


 おやおや。どちらかが嘘をついていますか。

 それとも、どちらとも?



 どうにもわからないことだらけです。

 というか、事件をわかりにくくしているようにすら思えます。

 続けて私たちは事件現場に戻りました。

 リファールに教えてもらった本棚を調べます。


「ありませんね」

「無いな」


 本にはぽっかりと穴が開いています。


「我々が突入するまで、リファールとエインはあの部屋に居たはずです。とすれば、やはりガルズ氏を殺害した犯人は他に居ると言うことでしょうか?」


「何者かがドラゴンスレイヤーを盗もうとしたところ、ガルズと鉢合わせになり、殺害し逃亡、その後運悪くエインが入ってきた?」


「随分と奇跡的な状況ですが、今の所それぐらいしか凶器の消失を説明できませんね。むしろ、エインが運悪く入ってくるように仕組まれた。そう考えるべきでしょうか?」


「奇跡だなんてたいがいが人為的なものだ。人が奇跡だと思いこむから奇跡。奇跡を作り上げたから奇跡。君の魔力消失だって、どこかの誰かからしたら、奇跡なのだろう」



 十課に戻ると、カイドさんが書類の束を渡してくれました。


「一課からもらいました。もう必要ないだろうとのことです」

「エインの仕事の記録ですか」


 捜査はうちでやるからと見せてもらえなかったんですよね。

 クライスが本星だからとエインはもう捜査対象からはずれるということでしょうか。


「変わったところは無かったと思うけど。一応みとく?」

「ええ。一応」


 つくしさんから資料を受け取り、目を通します。依頼の内容や成果などが依頼ごとにわかれています。確かに、失敗の依頼が多いように見えますね。


「なにか変なところがあったようだね」


 私の微妙な変化に気がつくリンズ刑事。


「それ、プライベートではやらないほうがいいですよ?」

「それとは?」


「読心術」

「心にとどめておくよ」


「なんかヴィエルちゃんってリンズさんにあたりが強いね」

「ええ。密室で机がびしょびしょになるまで泣かされた仲ですので」


「えっ。リンズさんが? ヴェイルちゃんを?」

「はい。とても泣きました。とても悲しかったです」


「うーわ」


 つくしさんはなかなかに蔑んだ目でリンズ刑事を見ています。


「ちょっとまってくれ。確かに事実としては正しいが、君の思っているような状況ではないぞ」

「いたいけな少女を涙が枯れるまで泣かせたんですか」


「はい。リンズ刑事は説明が足りなさすぎるんです」

「わかるー」


「わかった。説明するから、この事件が解決したらするから。な。いいだろう?」

「本当ですか?」


 おもいっきし疑いの目で見てやります。

 同じくつくしさんも疑いの目。


「おい君たち。僕は上司だぞ。上司にそんな目を向けるやつがあるか」

「上司ってなんでしょう?」


「概念的なものでは?」

「なるほど。概念的なものだね」


「おいつくし、おまえ理解してないだろ」

「なんのことやら」


「あ。そういえばセクハラ相談室の連絡先教えてもらってません」

「それなら私が教えよう」

「ありがとうございます」


 リンズ刑事は私達の結託に焦っている様子。


「これ以上、僕のひどいうわさが広がるとまずいんだ」

「これ以上、追いやるところがないですからね。次は島流かなぁ?」

「それはゴメンだ。オーキンバーガーがない生活なんてありえない」


 そんなに好きだったんだオーキンバーガー。事件が解決した後、しっかり説明してもらえることを確認して、捜査を再開します。



 次に私達は、もう一度エインの聴取に向かいました。


「依頼? 友達から個人的に受けてた依頼だ。誰かは言えねぇがな」


 ドラゴン討伐の依頼についてです。家宅捜索でもそのようなメモなどは見つかっていないのです。


「もしかして、あなたの受けた依頼はガルズさんの討伐なのでは?」


「そんな依頼受けるわけねぇだろう、命がいくつあっても足りねぇよ」

「あなたはなぜ魔物や幻獣などの討伐依頼ばかりを受けているのですか?」


 これはそこまで珍しくはないそうなのです。人間を殺すことが嫌な人は、魔物や幻獣を好んで討伐するそう。


「そんなの俺の勝手だろうよ。それよりよ、オレを殺そうとしたドラゴンはどうなったんだ? ちゃんと逮捕したんだろうな?」

「捜査情報を教えるわけないじゃないですか」

「ちっ……」


 その時のエインの焦りを、私は見逃していました。



「さっきの言葉、なんか変じゃなかったか?」

「エインの言葉ですか?」


 聴取の帰りに、リンズ刑事が指摘しました。


「ああ。違和感だ。彼は本当のことを言っているようで言っていないような。そんな気がする」

「なぞなぞですか?」


「彼らは何故か、遠くを見ながら近くのことを話しているような。そんな感じだ」

「彼ら?」


「ああ。リファールも時々、そんな感じで話していたね」


 その時です。またあのときのような感覚が来たのです。

 すべての言葉がつながるような。


 確かに、エインもリファールも言動が変でした。

 呼び方が!


「リファールを治療した人に会いたいのですが」

「治療? それなら警察病院だが……」



「あー。書こうかどうか迷ってたんですよ」


 頭を掻きながらそうおっしゃるのは警察病院の女医さんです。


「ドラゴンの治療なんてしたことないからさ、いい加減なことは書きたくなかったんだよ」

「つまり、リファールさんの体には今回の騒ぎでついたと思われる傷よりも、もっと古い傷があった?」


「ああ、だが変なんだよ。昔の傷が今回の傷で上書きされてるように見えるんだなこれが」

「上書きですか……」


「ああ。だからこそ判別が難しかったんだ」

「なるほど、ありがとうございます。これですべてが繋がりました」

「さすがだね、名探偵」


 ドラゴン用の聴取室にエインとリファール、そしてクライスを呼んできます。ついでに一課の刑事もね。これから華麗に犯人を言い当てるのです。


 私はみなさんの前に立ち。ショーを始めます。


「リンズさんが抱いていた違和感の正体。それは彼らの言葉、正確にはお互いの呼び方なのです」

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