第13話 (レン)
一号が僕に似てるって最初に思ったのは、いつのことだっただろうか。
当然のことながら血の繋がりなんてないのに、見れば見るほど僕に似ていた。
人の輪に混ざるのが苦手で、どちらかといえば一人でいる方を好む。会話が下手で、放っておけばずっと一人で剣や鎧の手入れをしていた。
そして、一人だけ他と違うから兄弟たちの中でも若干浮いていた。決して仲が悪かったわけではないと思うけど、完全に溶け込むこともできずに、リーダーの役割をすることで集団に混ざっていた。
人に馴染めず、人から恐れられ、一人でいる方が気楽だと考えているのが手に取るようにわかった。
僕の後を追う、と言うわけではないけど、結局のところ僕と似たようなところに行き着くんだろうな、と思っていた。
だから、急にそんなことを言わないでくれ。
「やめなさい! 人間の味方なんて!」
僕が思わず怒鳴ると、一号は不機嫌そうな目で僕を睨む。
「またそうやって俺のやることに文句をつけるのか。いい加減にしろよ」
「文句じゃない、忠告だ。だいたい君は人間が嫌いだろう」
「人嫌いなのは俺じゃなくてお前だろ。一緒にするな。じゃあなんだ。お前は人間なんか全員死んだ方がいいって言うのか」
「本当に可能なら、それが一番平和だと思うよ」
争いを止める方法は簡単だ。その場にいる者を全員殺せばいい。前の時も、一号以外が全員死ぬまで止まらなかった。
「俺はもう二度と、あんなのはごめんだ」
わかっているんだろうか。人間の味方をするってことは、ミュウと二号の敵になるということだ。
「二号に会えて嬉しくないのか」
「嬉しいに決まってる!」
「じゃあ、それでいいじゃないか!」
「俺はもう殺しはやらない!」
友達の弟を殺したことを気にしてるんだろうか。そんなの、今更だろうに。
街はあっちこっちが手酷く崩れて、火薬の残り香が漂い、上がった火の手をなんとかしようとみんなが右往左往している。その中に何人か、こっちを指差してヒソヒソと話している者の姿が見えた。
「いくら歩み寄ったって、人間の仲良くするのなんか無理だよ。そこの彼女だって、この壊れた街を見たら、君のことを怖がるに決まってる。今に僕の言ったことが正しいってわかるはずだ」
「うるせえ!」
そっちは茨の道だし、その先にはなにもない。僕はそれを知っているから、教えてやらないといけない。
「場所を変えて話そう。ここは人目につきすぎる」
「お前と話すことなんかこれ以上ねえよ」
僕が止める間もなく、一号はドラセーとクリーチャーを担いで去っていった。意見を変える気はないらしい。
「ねえ、レン。これからどうなるの?」
不安げな顔でミライがこっちを見上げている。大丈夫だよって言ってあげたいけど、そんな保証はどこにもない。
どうしよう。ホムンクルスの味方をするとは言ったものの、ホムンクルスのために行動を起こしたミュウと、ホムンクルスである一号の意見が割れてしまった。
「争いが起こるだろうね。君はどうするつもりだい?」
彼女は戦えるようには作っていないし、死ぬこともない。死んだホムンクルスたちへの義理もない。彼女が戦いに参加する必要は、正直ない。
彼女は僕について来るだろう。僕の身の振り方一つで行く末が決まる。慎重に考えなきゃ。
そう思うのに、ミライはこともなげにはっきりとした口調で言った。
「私、あの子に会いに行くわ」
「あの子?」
「私に似てるあの子。あの子とお話ししてみたいの」
「あの二人の側につきたいってこと? 人間をみんな殺すのかい?」
「違うよ。話を聞きたいだけ。レンの知り合いだよね? どんな子なの?」
そう問われて、言葉に詰まる。
僕はミュウのことをあまり知らない。「錬金術の才能があるっぽい」とシュウに預けられたけど、うまく仲良くなれずに嫌われてしまった。
「シュウのこと、覚えてるかな。あいつの妹だよ。僕の弟子だった。名前は」
「ミュウだよね?」
驚いた。ちゃんと話したことはなかったはずだけど。
「なんで知ってるんだい?」
「夢に見たの。私は瓶の中にいて、あの子は私が浸かっている溶液に自分の髪を入れた。多分あれは、本当にあったことなんだと思う。まだ作りかけの私が見ていた景色が、夢として現れたんだ」
それで容姿が似ているのか。もしかしたらミライが愛だの恋だの言い出したのはその影響かもしれない。
「やめなさい。ミュウの思惑が完全にわかったわけじゃない。不用意に近づくのは危険すぎる」
「やだ。行く」
「聞き分けのないことを言わないでくれ」
「そっちこそ、あれもこれもやめろって言わないでよ。行ってきまーす!」
そう言って、ミライは街の外を目指して走り出した。少し進んでから振り返り「晩御飯までには帰るから心配しないで!」と叫んで、再びどこかへ向かって行く。
「ちょっと! 待ちなさい! 待ってってば!」
慌てて追いかけたけど追いつけなかった。いつのまにかジンの姿も見えない。ミライと一緒に行ったんだろうか。
「困ったな。どうしよう」
大人ぶって二人を制止したけど、一番愚かなのはこの場から動けない僕だ。どうすればいいのか、わからない。
確かにミュウの言う通りだとは思うけど、再びホムンクルスたちを戦火に叩き込むようなことはしたくない。
「ごめんな」
気がついたら、目の前にシュウが立っている。いつの間に。
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