第4話 (レンの回想)

 シュウに誘われるままに、僕は錬金術の道に進んだ。確かに、僕は周りの人よりもいろんなことが上手だった。望めばなんでも作ることができた。天才だとか神童だとか言われていた。

「なんかさ、みんながびっくりするようなもの作ろうぜ。誰もがお前のことを認めずにはいられないくらい、全世界があっと驚くようなものを。せっかくなんでも作れるんだからさ」

 ある時シュウがなんの気なしに言った。シュウは僕がいつも一人でいるのを気にかけて、事あるごとに人の輪に入れようと躍起になっていた。

「僕はこの学院の隅っこで穏やかに暮らせれば、それでいいんだけど」

 学院での生活は、人生で一番穏やかだった。周囲の人間に振り回されることなく、自分のペースで生きていていられる。

「そんなこと言ったって、俺たちいつかは卒業するんだから、ずっとここにはいられないし。でっかいことやろうぜ。俺は、俺の友達はすごい奴なんだって、全世界に言って回りたいんだ」

「なんでそんなに僕に構うんだ。友達なら他にもいるだろう」

「水臭いこと言うなよ。俺とお前の仲だろ?」

 実際、シュウはクラスの人気者だった。友達は多いし、あっちこっちに顔が効くし、教授からの信頼も厚かった。

「なんか作りたいものとかないわけ?」

「うーん……。そうだなあ。特にないなあ」

「お前なら、それこそ賢者の石とか作れそうだけどな」

「ああ、うん。今試作品を作ってるところなんだ。原理はだいたいわかったから、もうちょっとでできるんじゃないかな」

「うわ。まじかよ。どうやってやるんだ?」

「ほら、賢者の石って完全な物質って話だろう? この世界の全てのものは、火、水、風、土の要素の組み合わせでできている。それで、それらの要素を全て持った純度の高い物質を作ればいいんじゃないかと思って。今は、純度の高い四つそれぞれの要素を持った石を試作してる」

 火の石、水の石、風の石、土の石は、結構簡単にできた。処分した覚えもないけど今は手元にないから、おそらく学院のどこかに転がっているだろう。

 それらを混ぜ合わせるのはかなり難しい作業だったから、結局ミライの製造に取り掛かる頃にならないと賢者の石は完成しなかった。

 ある日、シュウは僕を祭りに連れ出した。年に一回、放浪の民がやってくる。屋台を出したり、芸を披露したり、彼らのおかげで一日だけ街が華やかになる。学問以外に興味がない連中しかいない街では、それが貴重な娯楽だった。

「作りたいものがないってことは、好きなものがないってことだ。楽しいことしてたらそのうち思いつくだろ」

 確かに、僕に好きなものなんかなかった。嫌いなものは結構あったけど、僕に危害を加えないのであればそれ以上は望まなかった。

 芝居の一座が、たまたま祭りに来ていた。足を止めると、シュウが「興味あるなら見てこーぜ」と言い出して、初めて観劇というものをした。

 いわゆる勧善懲悪の英雄譚だった。すごく強いヒーローが、悪い奴をやっつけて弱い者を助ける話。細かい内容は覚えていないけど、そういう筋書きだった。

 幼い頃の僕の前にも、こんな人が現れてくれていたら。そう思った。

「シュウ。僕、あれ作りたい」

「あれって?」

 僕の指差した先を見て、シュウが目を丸くした。

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