第16話 嵐を越えて

「次のニュースです。昨日未明、モンゴルの砂漠地帯でツングースカ大爆発に次ぐ謎の大爆発が起きました。原因は今も不明ですが、現地の調査隊は異常な磁場を検出。映像機器が影響を受けたため、現地からの生中継が断念された模様です。」


 テレビから流れる映像。

 そこにはテレビ局としては異例な事に、現地の写真や映像ではなく、クレーターのイラストが描かれていた。


「また、調査隊の報告によりますと、爆発地点では気温が異常に上昇し、半径数十キロにわたる砂漠地帯がガラス化しているとのことです。この現象は、核兵器の使用時に見られるものと似ていますが、放射線の痕跡は確認されておりません。」


 核爆弾のマークに、バッテンが入ったイラストが表示される。


「関連性は不明ですがマグニチュード6.0の地震が現場近辺を震源として観測され、現場周囲数百キロでは依然として通信機器に異常が発生しているとの報告も出ています。神の怒りではないか、いや核を超える新兵器だ等と、信憑性の薄い噂も飛び交っており、世間でも混乱が続いております。」


 その後も、ニュースはまだまだ続いている……


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「アレス、滅茶苦茶強かったなぁ!アイツに出会う直前、生き物たちが一斉に逃げ出したのも頷けるってもんだよ。」


 興奮気味に権が話す


「アレス・シンクロシィの一撃で、僕達二人とも瀕死になっちゃったもんね。鉄貴先生が助けてくれなきゃどうなってた事か!」


 権が苦笑する。


「あんなのが世の中にいるなんて思わなかったぜ。アイツとの戦いの中で、何度も俺たちの終わりを覚悟した……。」


 正一が肩をすくめる。


「本当だよ。僕の全力の一撃が、まるで石ころを投げたみたいに……。」


 鉄貴は、嫌そうな顔で現地の新聞を読む。


「アレス・シンクロシィとやらで作られたクレーターが、昨日の今日でニュースになっているな。儂に早くも信念を曲げさせるとは、不詳の弟子共め……」


 パタンと新聞を閉じて一言。


「アレスのやつは、心技体のうち、技のみが欠けておったからお前達でもどうにかなったようなもんじゃ。本来儂が助太刀した所で、お前達二人は生き残らない可能性の方が高かったろうよ。あれで技もあったら、儂でも勝てなかったかもしれん。」


 鉄貴からの、最大級の評価であった。


「技は力を導き、心は力を制御する。そして、体は力に耐える基盤となる。だが、お前たちはその『技』が未熟だった。今回ばかりは幸運に助けられただけだ。」


 二人は、素直に鉄貴の言葉に頷く。

 あの勝利は、まさに紙一重の幸運が繋いだ奇跡だったからだ。


「アレス戦で目覚めた、権ちゃんの力の秘密も気になる所だね。アレスは、『ゼウスの器の力が目覚めたか!』とか言ってたけど。」


 権も、悩ましそうにしている。


「ゼウスの器ねぇ。聞き覚えがねぇが、案外それが俺の正体とやらのヒントなのかもな。」


 正一が眉をひそめる。


「ゼウスの器……。権ちゃん、君にそんな秘密が隠されてたなんて……。」


 権が肩をすくめる。


「さあな。でも、この力が俺をどこへ導くのか……それだけは気になって仕方ねぇ。」


 モンゴルの遊牧民族に入れてもらった白湯を啜って、権は再度アレス戦を振り返る。


「俺が覚醒してなかったら、あの場でただの肉片になってたかもな。正直、戦いの途中で手が震えてたぜ……。それでも立ってられたのは、この力のおかげってとこだな。しかしだ、覚醒した力でも傷1つ付けられなかった時は、どうしようかと焦ったぜ」


 正一も、それに同意する。


「僕も、生きてるのが信じられないよ……。でも、次また戦うことになったら、もう少し冷静に動ける気がする。」


 鉄貴は語る。


「技とは、力の流れを読むことだ。相手の力を無駄にし、自分の力を最大限に活かす。それができぬ者は、どれほどの力を持っていようと、敗北する。」


 鉄貴の厳しい声が、二人の胸に深く響いた。

 

「単なる力では、より大きな力に呑み込まれる。あの時点では、アレスのほうが覚醒したお前の力より強かったのだ。」


 鉄貴は、日本から持ってきたお茶を啜りながら一言


「覚えておけ。力を操る者は、力の真理を見抜かなければならん。でなければ、いずれ力に飲み込まれる。」


 二人は、元気よく返事をした


「はい!」


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 オリュンポス最強の剣、アレスが敗れたという報告は、瞬時にオリュンポス全土を駆け巡った。


「あり得ん……!北欧の結社『ユグドラシル』との戦いで、アテナ様が戦死された際も、アレス様はただ一人で敵将五名を相手に討ち取った。それどころか、ユグドラシルの部隊を壊滅させたというのに!」


 ヘファイストスが椅子を蹴り飛ばし、動揺を隠しきれない。


「エジプトの結社『マアト』との戦いでは、あの鎧を一度も外さず、彼らの軍勢を根絶やしにしたアレス様が……!それなのに、今回は鎧を脱ぎ捨てた真の力でさえ及ばなかったというのか……」


 その声には、信じがたい現実に対する恐怖が滲んでいた。


「アレス様は、数千年に渡るオリュンポスの戦士の頂点に立つ存在……。それが敗れるなど、歴史上、前例がない!」


 別の幹部が青ざめた顔でつぶやく。


「しかも相手は、オリュンポスの技術や神話に縁なき、ただの人間ども……!」


 彼の言葉は会議室に響き渡り、重苦しい沈黙を生んだ。

 怒りに怯える幹部陣に、意外な一言で返事をするゼウス。


「最強の剣アレスが敗れたか。ならば、それを倒した者たちがいかに人間であろうと、もはや軽視はできぬな。」


 だが、と前置きし、ゼウスは続ける。


「だが、オリュンポスが滅びることは許されない。全ての手を打ち、我が計画を守り抜くのだ。」


「オリュンポスの存続は最優先事項である。非戦闘型の幹部は、重要書類を持って逃走せよ。逃走後の連絡はヘルメスに一任する、万が一の事があれば復興に尽力せよ。」


「かしこまりました、不肖ヘルメス、貴方の期待に今度こそ全力で応えましょう。」


「我々も撤退と隠れ場に移動する準備をします。ゼウス様、ご武運を。」


 続けて、ゼウスはアポロンに命じる。


「アポロン、非戦闘型の幹部が逃げるまでの間、深明の弟子と黒鉄鉄貴、そして「ゼウスの器」を足止めしろ。可能なら、誰かを殺して戦力を削れ。『ゼウスの器』も代わりは幾らでもいる、アレについては破棄すれば良い」


 ゼウスの言葉に物怖じせず、弓を取り出して陽気に喋る。


「他ならぬゼウス様の頼みだ、頑張ってこなすとしますか。それに、私が全員倒しても構いませんよね。アポロンの弓術、見せてやりますよ」


 アポロンは、ゼウスに振り返ってこう断言した。


「まあ、相手が誰だろうと、私の矢は外れませんからね。むしろ彼らがどう避けるのか見物ですよ。」


 アポロンは不敵に微笑み、広場を退出する。


(続く)

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