第11話 崩壊2

 私の心には甘えがあった。甘えだらけだった。精神がねじれた翌日、体調の悪そうな顔をして派遣の仕事に出社すれば、きっと慰めてもらえるだろう、同情してもらえるだろう。そう思っていた。なんて愚かなんだろう。

出社してかんじたのが奇異の目。以前から感じていた批難の正体が今わかったような気がしたのだ。子供が生まれたのにあいつはまだバンドなんかやっている。しかも売れていない。正社員になる気なんてない。子供のことを考えていない。最低な奴だ。私はそういう仕事場の雰囲気を感じ、気が動転し、何が何やら分からなくなってしまった。まわりの同僚の一挙手一動足が自分への攻撃と感じた。

ああ、味方はいないんだ‥‥私は絶望に追い込まれるような気持ちで仕事をしていたが、相手の言っていることが耳に入らない。裏で根回しして私のことを監視している奴がいるんじゃないかと思い始める。もう所内は、あの部署に私という名のクズがいるという噂で持ちきりなんじゃないかと考えてしまう。

私の精神は崩壊した。そして、仕事がおわった後、私は辞表を提出した。

長い付き合いであったバンドメンバーとも連絡を絶ってしまった。

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