第12話

「あの怪魚は何故か真夜中にしか襲ってこないのです。ですのでしばらくこの小屋でお待ちいただけたら、と。」


あれからデルに連れられて港の端にある、倉庫として使われている木造小屋まで俺達は案内された。

……そして小屋のドアから外の様子を伺うこと数時間。……ザッパーーン!!バキィィィッッ!!


外から何かが破壊されるような音が聞こえた。

俺達は慌てて外に出た。

するとそこには全長10m程はあろうかという、鼻の部分が鋭く尖りウツボのように恐ろしげな顔の巨大魚が大きな漁船に向かって体当たりをしていた。


「……よーっし!!勇者よ!!今こそ主の出番じゃ!!」

そう言ってリルが後ろから怪魚に向かって俺の背中を押す。

「ちょ、ちょっと待てよ!!俺泳げないんだってば!!」

「……へ?何じゃと!?」

「だ、だから海に落ちたら俺沈んじゃうってば!!そ、そうだ!シンさん、ここはどうかお願いします!!」

俺は深くシンに向かって頭を下げる。


「……よろしいですかな?リル様?」

と戸惑いながらシンがリルにお伺いを立てると、

「……えぇーーっ!?勇者なのに金槌とは……。あぁー……やっぱり儀式が失敗したから……。ハァァァーーーーーッッ…………。しょうがないのう。シン!後は任せたぞ!!」

盛大にため息を漏らすとリルがシンに命令する。


「……このパチもん勇者め……。」

リルの後ろでマリスがボソッと呟いた言葉が俺のいたいけなハートにグサリと刺さった……。


一方、カイトが落ち込んでいる隙にシンは、

「ハッ!!御意!!」とリルに一礼し腰の剣を抜くや否や、こちらに向かって凶暴な尖った歯を剥く巨大な怪魚に、

神速牙突焰撃しんそくがとつえんげき!!」と何やらおっそろしいスピードで炎を纏(まと)った無数の突きを食らわせる。


……吹っ飛んだ怪魚は海面に腹を上にしてプカプカと浮かびピクピクと体を痙攣(けいれん)させている。


「さっすがシン様!!お見事!!」

とすかさず俺の隣にいたマックスがシンをヨイショした。

「……ふぅーーっ。」

と、腰の鞘に剣を納め一仕事終えたシンの俺を見る眼差しが心なしか冷たいような…。


「まぁとにかくこれでギルドから船を借りれるじゃろう。よし!!早速デルに報告しに行くぞ!!」

リルが一同に声をかけ、俺達はデルの家へと再び足を向けた。


    ◆  ◆  ◆  ◆


………一方その頃ラングーン魔導騎士団本拠地、その会議室では……。


リルの祖母キィールが一人ポツンと椅子に座っている。しばし何かに思いを馳せた後、


「……しかし、儀式に差し障りがあったとは言えあの勇者の能力………。まさか、な……。」

誰にともなくキィールは一人呟いた……。


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