第9話
……ビシャアアァァァーーーーー!!!ジュウゥゥゥゥゥーーーー!!!顔を両手で庇ったカイトだったが派手な音を立ててカイトの着ていた鎧の左肩部分が溶け落ちる。
「……ひ、ひえぇぇぇぇっっっっっ!!!」と腰を抜かすマックス。その脇で身を縮めるラウ(ネズミもどき。リルが命名。)。
「勇者様っっ!!」いつもはテンションの低いマリスが思わず叫ぶ。
……ジュウゥゥゥゥゥッッ!!もうもうと立ち上る煙の中から強烈な酸に顔を焼かれた筈なのにしかし平然としているカイトの姿が現れた。
「…お主っ!!!だ、大丈夫なのか…?」と動揺して青くなったリルに問われ、
「俺もヤバイと思ったけど何か大丈夫みたいだな。水を浴びたのと変わらないって言うか……。」
と、自身も驚きながら返すカイト。
そのやり取りの間にガルビンと呼ばれたスライムっぽいモンスターを、シンがいつの間にか腰から抜いていた湾曲した片刃の剣で一刀のもとに切り捨てていた。
「…ふう。やれやれ。勇者殿もご無事で何よりです。」と近寄ってきたシンが白々しく言った。
(……さっき俺が襲われたときには眉一つ動かさなかったくせに。)胸中でカイトが呟く。
「……打撃攻撃はともかくとしてまさか毒の類いも効かないとは。恐れ入ります。」とシン。
「……それにしても、先程のガルビンは勇者殿が仲間にされた方がよかったですかな。不肖このシン思わず切り捨ててしまいましたが……。」と少し悔しそうにそう続ける。
「…いやいや今のはしょうがないじゃろう。我らもまさか勇者には毒も効かぬとは知らなかったのじゃしな。」とリルが慰める。
コホンと一つ咳をして、
「……それでは仕切り直してテヘまで向かうとするか。」とリルが一同に呼び掛けると、またカイト達はぞろぞろと歩きだした。
「いやぁー、それにしても勇者様のスキルは凄いですねー!!普通ガルビンの毒液なんて喰らっちゃったら顔がドロッドロに溶けちゃったりすると思うんすけどねー!!」
港町テヘまでの道中、マックスが俺の側まで近づいてきて興奮した口調で言う。
「…ええっっ!?あのモンスターそんなにヤバイ奴だったの?」
「そうっすねー。シン様だからこそアッサリ倒せたように見えるっすけど普通はそれなりに鍛えた人間数人がかりでも苦戦するレベルですかねー。なんせあの毒液とすばしっこさですからねー。」
のほほんとした口調でマックスは続ける。
……だからか。リル達が極力戦闘を避けようとしていたのは。まぁ無論勇者の俺に毒液が効かないって知らなかったのもあるだろうけど。
「……まぁあれじゃな。主の能力はおいおい明らかにして行けば良いじゃろう。それよりも今は川を渡る舟を調達せんといかん。テヘはトーリスほどでは無いとはいえ、漁業の盛んな街じゃ。ギルドに頼めばすぐに小舟の一つや二つ調達してきてくれるじゃろうよ。あとお主の溶けた鎧も何とかせんといかんのぅ。」
先頭を歩いていたリルがこちらを振り返って言う。
「……あとどれぐらいで街に着くんだ?」
そろそろ夕陽も地平線の向こうに沈んでしまいそうだ。
「確かもうそろそろじゃったと思うが……。ああ、あれじゃ!」とリルが前方に小さく見えた街の入り口の門を指差す。木製の3m位ありそうな立派な門が俺の目にも映った。いつの間にか俺の肩に登っていたラウがパンパンと手を叩いて小躍りする。
「……全くお前人間みたいだな。」と苦笑いした俺に「きゅ~~っ!!」とまるで俺の言葉がわかっているかのようにコクン、と頷く。
「おぉ~~い!!誰かおらぬか~~!!門を開けてくれんかのう~~~!!」門の側まで近づいてリルが声を張り上げる。
すると門の上から誰かが一瞬こちらを窺うのが見えた。しかし待てども一向に門は開かない。
「……もしや聞こえておらぬのか。よしもう一度じゃ。おぉ~~~い!!!だ~れ~か~あ~け~て~く~れ~~~いぃぃ!!!」先程よりも声を張って再びリルが呼び掛けると、
「……さっきからうるせーーな!!」とさっきチラリと姿を見せた、頭に灰色のバンダナを巻いた小柄な男が悪態をつく。
「…なんっじゃ!!そのふてぶてしい態度は!!」とリルが返すと、
「この街は俺達ボルト団が乗っ取った!!てめぇらなんか通すかよ!!」と男が凄む。
「…げっ!!ボルト団って言ったら最近名を上げてきてる盗賊じゃないっすか!?」と慌ててリルの方を見るマックス。
「な~んじゃ!単なる盗賊風情がえっらそ~に!!」
「ダメですよ!!リル様!!」
「てんめぇ~~!!舐めてんのか!!コラ!!」とリルの言葉に激昂した男が
「そこ動くなよ!!ぶち殺してやんよ!!!」
と言ったかと思うとおもむろに木の門が外に開き出す。
中からさっきの男と同じような灰色のバンダナと動きやすそうな布のシャツ、黒ズボン姿の男達が鋭いナイフ片手にわらわらと出てきた。
そして、さっきの男がリルに向かってギラリと光る瞳で、「俺達を舐めくさったこと後悔させてやる!!」と吠えて襲いかかった。
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