第8話
それからも延々とマリスによる講義は続いていった………。
「……それではそろそろ行くかのぅ。」
白ローブから白い金属の胸当てに同じく白い金属製のスカートのようなものに着替えたリルが言う。
魔導騎士団の本拠地、その入り口にはリル、緑の胸当てと同色の金属製のスカート姿のマリス、黒い甲冑姿のシン、げっそりした顔で緑のシャツに綿のパンツ、白マントのマックス、そして白い甲冑を着込まされたカイトの姿がある。
「………よいか、リルよ。シンとお主を共に勇者につかせたのは他でもない。わが魔導騎士団の中の魔王の側に与した裏切り者を炙り出すため敢えて城を手薄にする為じゃ。シンには数日の後、密かに帰ってくるように言っておる。なので勇者に同行するのは実質お前たち3人ということになる訳じゃ。ちなみにマックスには妙な事はできぬように魔法をかけておるから安心するが良い。よろしく頼んだぞ。」
リルの脳裏に祖母キィールの言葉が甦る。
(……気合いを入れて行くことにしよう。シンは同行せぬも同然なんじゃからな。)
リルはひとつ頷くと一同に声をかける。
「行くぞ、主たち!!」
「ハッ!!リル様!!」シンとマリスそれにマックスが声を揃えて答える。
(はぁ~~~……。やれやれようやく出発か。)
カイトは一人胸中でごちる。
……こうして4人+1人(一応勇者)+一匹(仲間になったネズミもどき)はラングーンの都を後にしたのだった。
「聖剣は北の地ヘルズ山脈の向こうのバヌーに、聖鎧は東の都ルダに出現しておるはずじゃ。取り敢えずはラングーンの西のトーリスの街を目指すことにするぞ。そこから橋を渡って北上し、まずは聖剣を手にいれるのじゃ。」
リルが一同に声をかける。
(そういやマリスの講義によると漁業が盛んな街だっけ?)カイトは授業の内容を思い浮かべる。
(……寿司とかこの世界には無いよな、多分。)
この世界の食事は何日間か食べてきたものの、パンのような主食に筋張った固い何とも言えない独特の風味をもつ肉(どうやらこの世界には鳥、豚、牛はいないようで狼っぽいモンスターの肉を食べるのが普通らしい。)ばかりが食卓に並び、どちらかと言うと魚の方が好きなカイトにはいまいち物足りなさを覚えるものだった。
(……せめて生の刺身とかあれば良いな。)
仄かな希望を胸にカイトはリルの後を追った。
……俺達はリルの後ろにぞろぞろと続いてラングーンから西にあるトーリスに渡る大きな橋までやって来た。
すると橋の袂で行商人らしき一団が立ち往生していて、
「………困ったなぁ。一体いつになれば橋は通行できるようになるんだろうか。」などと話している。
「……あれあれっ、何かヤバくないですかこれ。」
マックスの声につられて一同が橋を見ると、どうやら橋の中程が大きく破損しているようだ。
「……これはまずいのう。儂一人ならば何とか魔法で渡れるかもしれんがこの人数ではのう。」
リルが思わず顔をしかめる。
「こうなったら先に南の同じく漁業を営んでいるテヘへと向かい小舟でも調達してくるしかありませんな。」
シンが渋面でリルに話し掛ける。
「……ここからテヘまでなら何とか今日中には辿り着けるか、と……。」
マリスも続けて言う。
「…おいおい、ラングーンにも小舟くらいあるんじゃないか?」と俺が尋ねると、
「……手続きに少々時間がかかるのじゃよ。ならば、やはりテヘまで船を借りに行くのが良かろう。」
リルがそう答えるがどこか歯切れが悪い。何でだろう?と思っていると、
「……魔導騎士団とラングーンの貴族達とは折り合いが良くないのです。…だから、船を借りようにも一々手続きに時間をかけて嫌がらせをして来るでしょう……。」と事情を知らない俺にマリスが説明する。
「……ふぅん。そうなのか。じゃあ仕方ないな。」
「…ではこれより進路を変えて南のテヘへと向かうぞ!!」
リルが先頭となり再び俺達はぞろぞろと歩きだした。
トーリスに渡る橋から1時間位歩いた頃、街道の茂みからスライムに似た黄色いモンスターが出てきた。何やら尾の方には鋭いトゲのようなものが生えている。
「……ガルビンか。この辺りには生息していなかったはずじゃが…。ともかく奴はまだ儂らには気づいておらんようじゃ。そーっと背後を通りすぎるとしよう。」
リルの言うことに無言でコクコクと頷く俺以外。何だ?そんなにヤバイ奴なのか?あれが?
「何をモタモタしておるのじゃ!!早くこっちに来るのじゃ!」小声でリルが俺に促す。
「……あ、あぁ。今行く。」俺がそろりそろりと足音を忍ばせてスライムの背後を通過しようとすると、
「☆◆◎↓▽▲↓」とスライムが俺の方を振り返って超音波のような音を発した。
「…マズイ!!走って逃げるのじゃ!!」
リルの号令に4人は走って逃げようとしたが、スライムが正面に回り込む。
「#◎▽§★◆」また超音波のような音を発してスライムが俺に襲いかかった。
「…カイト!!」リルが叫ぶ。
黄色いスライムの尾から何か液体が射出される。俺は思わず両手で顔を隠した。
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