第2話

 「えっさ、ほいさ!えっさ、ほいさ!」

 なんだか耳元でいかついバリトンボイスが聞こえるような…。


 …あれ、俺こんな目覚ましボイスとか入れたっけ?…。まぁいいや…。まだ眠いし、もうちょっとだけ眠ろう…。


 「とうちゃ~く!!ぶはぁ!!」

 また、いかつそうなバリトンが…。

 なんだよ、これ。また、梨花の奴が勝手に変な設定したな…。学校行ったらとっちめてやるかんな…。


 つんつん。あれ、なんかベッド冷たくね?

 なんか固いような…。つんつん。なんだよ、まだ寝かせてよ母さん…。


 「だ~れが母さんだ!おい、起きろ!」

 ぺチッ、ぺチッ。…なんか頬っぺたがいたいような…。ぺチッ、ぺチッ!

 「あ~と、5分~!」ドガッ!!

 「いってぇぇ!!……あれ、ここドコ?」

 寝ぼけ眼の俺の前には、白いローブ姿のなんとなく偉そうな10代っぽい少女(?)が立っている。


 「ようやくお目覚めか。よくねむっておったな。わしの名前はリル・クインと申す。どうぞ良しなに。」

 そう言って女はローブの端を両手でちょこんと摘まみ、軽く会釈してみせた。


 「えっ?ていうか、ここ何処ですか?」

 「…ちっ。アーダンの奴め、さては薬の量を間違えおったな…。使えん奴じゃ…。」

 薬?何の話だ?


 「…え~、こほん!主は我ら魔導騎士団が魔王討伐にこの世界に召喚した!どうか、世界を救って欲しい!異世界から来たりし勇者よ!」

 

 「…はっ!?どゆこと!?」

 「これから我らが主に魔王討伐に必要な知識などをれくちゅあする!」 

 「リル様、レクチャーです…。」いい間違えた女に回りにいたローブ逹の一人がすかさず耳打ちする。声からしてどうも若い女のようだ。

 

 「わかっておる!場を和ませるためのじょおくじゃ!」

 なんか頭から被ったローブの下の顔、赤くなってない?

 「…とにかく!!主にはレクチャーが終わり次第、魔王討伐の為、旅立ってもらうことになる!覚悟はよいな?」ずずいっと、リルと呼ばれた少女が顔を寄せる。

 

 「お主にも心の準備というのが必要じゃろう。しばらく休むが良い。」そう言い、少女は軽く顎をしゃくる。

 屈強そうなローブ男逹の一人が、「案内します。こちらまでどうぞ…。」そう言って右手を石畳の廊下の奥に差し出した。何がどうなってんだ?一体…。


 (一体、ここはどこなんだ?さっきの女の子が言うには、どうやら巷で噂の異世界に召喚されちまったみたいだけど。)

 

 堅牢そうな灰色の石のブロックで組み立てられた無骨な通路を、きょろきょろしながら白ローブの一人の後をおっかなびっくりついてゆく。

 

 最初に目覚めた通路からしばらく真っ直ぐ歩き、右に折れる。


 「勇者様には、我々の持てる限り全ての情報をお教えいたします。それにはどんなに急ごうとも数日はかかると思われます。つきましては、こちらの部屋を寝床としてお使いください。」

 

 俺を案内してくれた白ローブは軽く会釈すると、来た道を引き返していく。


(とりあえず、気持ちを落ち着けたいぞ…。)そう考えながら、手近にあった椅子に腰を落ち着ける。

 

 通された部屋は、20畳ほどはあるだろうか。


 控えめな白いレースの天蓋のついたダブルサイズのベッドが右隅に一つ。その左脇には、衣装棚と思われるタンスが一つ。

 対面の隅には、今俺が座っている事務的な少し黄ばんだ、白い椅子と机が1組、そして入ってきた頑丈そうな樫(かな?)の黒っぽいドアが一つ。

 

 壁紙は淡い青色で統一されている。

 対面にあるベッドに転がり込む。


 「はぁ~~……。」自分でも間抜けだな、と感じてしまう程の、気の抜けた声が漏れる。


 「何でこんなことになっちゃったかな~。」一人、呟く。しばらく、呆然と寝転がって天井を眺めていると、扉の方から「コン、コン!」、とノックの音がする。


 俺は思わず、バッとベッドから身を起こして、「はい!」と返事を返した。


 扉の向こうから、「勇者様、リル様がお呼びです。扉を開けていただけませんか。」と、さっき俺をこの部屋まで案内してくれた白ローブの声がする。


 つかつかと、ドアまで歩いていって開ける。


 「勇者様、お休みのところ申し訳ありません。リル様がお呼びです。私についてきてくださいますか。」と、丁寧ながらも有無を言わせない調子で彼は俺に告げる。その態度にしぶしぶ俺は彼の後を付いていく。



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