第3話

 白ローブの男に先導されるまま、石造りの通路をしばらく歩くと、吹き抜けの広いホールに出た。 


 「勇者よ!こちらに来るが良い!」リルと呼ばれていた、白いローブの少女が端の方にある円卓の上座から声をあげる。

 「…なに?」自分でも不貞腐れた声だな、と思いながらそう返す。


 「…さて、すでに伝えたと思うが、主にはこれからこの世界、そして、この世界を闇に染めようとしている魔王の軍勢について等々、色々学んでもらうことになる。…ついては、主の教師役として…。マリス!」


 リルが一方的にまくし立てたか、と思うと、俺の背後から音もなく、白いローブを羽織り、黒髪ショートで前髪を額に垂らした、どこか陰気そうな少女が現れる。


 「お呼びでしょうか……。リル様…。」声の方もどこか気だるげだ。

 「今日から主には、この異世界から来た、右も左もわからん勇者に、トレーニングを施してもらう。よろしく頼むぞ!!」

 「御意のままに……。」そう答えると、黒髪の少女は、リルに恭しく頭を下げる。


 「それではの。」俺に軽く手を上げて、リルはお付きであろう、別の白ローブの少女を従えて去ってゆく。

 

 「…さて、それでは、勇者様とりあえずこちらに…。」相変わらず、どこか気だるい調子で黒髪の少女がこちらに手招きをする。


 近づくと、「…まずは、あなたのステータスを確認させていただきます…。ファル・クタン!」少女が何か呪文っぽい文言を唱える。

 「………?」あれ?何か戸惑ってない?なんで?


 「ファル・クタン!」もう一度呪文を唱える少女。「………?、……??」あっれっー?おっかし~な~??、という感じで呻く少女。


 「…えっっ、どうかしたの?」思わず、聞いてしまう俺。


 「……しばし、お待ちを……。」そう言い残したか、と思うとダッシュで奥に引っ込む少女。バタン。激しい音を立てて扉が閉まる。「??」一体全体何だってんだ??



 「……つまり、何じゃ……。異世界から召喚した勇者のステータスが見れない、と…。」

 「…いえ、…正確に申しますと、何か変なモジャモジャっとしたもので覆われている、と申しますか…、何かバグっぽいと申しますか……。」


 「…わかった。わしが直接見てみることにしよう!!」


 ……マリスと呼ばれていた少女が慌てて出ていってから、15分位たった頃だろうか。ツカツカツカツカ、と廊下から早足で数人の人間が近づいてくる。

 

 「おい!勇者よ!!主の能力を確認させてもらうぞ!!」少し息を切らせながら、リルが頭部にかかっていたローブをはだけさせた状態で言ったかと思うと「ファル・クタン!!」と食いぎみに俺に魔法をかける。


 「……えっ?」目を丸くして立ち尽くすリル。

 「…もう一度だ!ファル・クタン!!」

 「……そんな馬鹿な…!!」驚愕の瞳と共に再び立ち尽くすリル。


 「……なぁおい!!一体なんだってんだよ?」思わず返す俺。


 「……おぉい!!マックス!!マックスはどこじゃーー!!!」目を血走らせてリルが唐突に叫びだした。

 

 …少ししてから、「ハッ!マックスここに!!」という声と共に、肩から白いローブを着こんだ、まだ10代であろう金髪で短髪の少年が姿を現した。

 

 「主っっ!!まさかと思うが、またやりおったなぁ~~!!!」腸が煮えくり返っている、という表現がピッタリな様子でリルがマックスと呼ばれた少年を睨み付ける。


 「そ、そんな事はありません!!」といいつつ、リルの燃え盛る瞳から目をそらすマックス。

 「あれほど騎士団の物品を売るな!、と申したではないか~~!!!」


 …はっ?物品を売る??どゆこと!?


 ややあって、「………申し訳ございません~~~!!!どうか、ご容赦を~~~~!!!!」と引くほどの勢いで地面に額を擦らせて土下座する少年(マックス)。


 「…お主、また牢獄で地獄を見たいらしいな?」凍りついた声音でリルが告げる。すると、ものすごい勢いでブンブンブンブンと頭を横に振る、マックス。


 「引ったて~~~~い!!!!」リルが言うや否や、リルの周りにいた数人の白ローブ逹がマックスの両脇に腕を差し入れる。


 「すいませ~~~ん!!!!どうか許して~~~~!!!!」哀れな泣き声を残してマックスと呼ばれた少年は何処かへと連れ去られてゆく。


 「………え~~と~~??、リルさん??説明欲しいんすけど……。」

 「………………………………。」長い沈黙のあと、「……しばしここで待っておれ……。」とだけ残してリルは残りの白ローブ逹と共に足早に去ってゆく。


 「????」俺は呆然とその後ろ姿を見送った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る