第356話

 「……な、何がどうなったんスか」

 

 よろめきながら起き上がったハヤテは、片腕の痛みに耐えながらそう言った。周囲の様子を確認すれば、生き残った者が少ない事を一目で理解出来た。起き上がり始めている者達は、ハヤテと同様に起き上がったばかりのようだ。

 そんな様子から目の前の黒炎に目を向けたハヤテは、状況を理解出来ずに佇んでいた。


 「気が付きましたか?」

 「姐さん……あれは、アニキの」

 「……」


 ハヤテの問いに対して、刹那は黙って頷いた。刹那もハヤテ同様に消耗しているようで、傷だらけの見た目でそれを理解する事が出来る。刹那やハヤテと同じく、他の生き残った者達も徐々に目を覚まし始めていた。


 「ぐっ……何秒気を失ってた?」

 「起きたかぁ、猫……」

 「っ……!?」


 頭を左右に振りながら、意識を覚醒させようとする魅夜。そんな魅夜の様子を見下ろした酔鬼によって、驚いて飛び起きた魅夜は一気に距離を取った。その様子に肩を竦める酔鬼だったが、今は魅夜を煽るよりも優先すべき事がある。


 「安心しろ、何もしちゃいねぇよぉ。それよりも、だ。あれを見ろ」

 「……黒い、炎……?何あれ」

 「恐らくは焔鬼の技だなぁ。妖力も気配も変わっちゃいるが、あんな芸当が出来るのは俺は他に知らねぇ」

 「焔……」

 「行ってどうするつもりだよ、猫」

 「手伝う。ボクは鬼組の幹部だから、それが仕事で生き甲斐」

 「お前が手伝った所で、状況は何も変わらねぇぞぉ。奴等の妖力だけで空気が震えてるんだ。こっちまでビリビリと手が痺れる程に感じるんだ。俺達の役目は、焔鬼の無事を祈る事だけだぜぇ?」

 「……っ」


 酔鬼の言葉通りだ。今の魅夜は戦闘の連続で、妖力も体力も殆ど残っていない。今のままでは、例え焔鬼の戦闘に介入したとしても足手まといで終わるだろう。それを理解していた魅夜は、悔しさに包まれた表情を浮かべる。


 「辛気臭い顔してんじゃねぇよ」

 

 そんな魅夜と酔鬼の会話に介入したのは、しかめっ面を浮かべる狂鬼だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る