第335話
覇鬼の身動きを拘束し続け、桜鬼の妖術を受ける事になった茜。そんな茜を引っ張り戻し、負傷した茜を妖術で治癒しようとする桜鬼。だがそれに対し、茜は手で制して言った。
「わ、私は大丈夫だ。それよりも、ほーくんを手伝ってあげて?一人じゃあの人を倒す事なんて出来ない」
「兄様なら大丈夫です。貴女の傷を手当しないと……」
「本当に良いから……今の私は鬼化してるから、自然治癒能力が上がってる。放っておいても治るからさ。お願い、サクラちゃん。ほーくんを手伝って!」
茜の言葉に従えば、確かに覇鬼を倒す事が出来るかもしれない。そう思えてしまう程、焔鬼は果敢に攻め続けている様子だ。しかし、その状態がいつまで続くかも分からないのだ。
それに桜鬼は考えてしまうのだ。自分が焔鬼の足を引っ張ってしまうのではないか、そんな考えが桜鬼の脳内を侵食していく。
「っ……(茜の言い分を否定するつもりはない。けど、私の力が通用しなかった。そんな私にすら頼るつもりなのですか?)」
不安が募る中、覇鬼を攻撃し続ける焔鬼は刀を振るう。
「貴様一人で何が出来る?貴様の力は確かに大した物だがな、何度も言っているだろう。所詮は世の子だ。子は親に勝てぬ。それが現世の理であろう?」
「現世と魔境を一緒にするな。テメェに親心があるかよ、子であるオレ達に殺し合いをさせた事を忘れたのか?」
「あれは必要な事だ。魔境の王を決める為に必要不可欠な物、貴様等に拒否権等ない」
「ふざけんなっ!!テメェのその考えで、何人の奴等が犠牲になったと思ってる。魔境の王、そんなものを決める為に、何人が命を落としたと思ってんだ!」
「あれほど相手に情を移すなと言ったはずだがな。やはり貴様は、他者の命を大事にし過ぎる。――貴様は世の息子の中で、強者でありながら失敗作だ」
そう告げた覇鬼に押し退けられた焔鬼は、刀で防御して空中で立て直した。着地してすぐに攻め込もうとした瞬間、焔鬼の眼前に覇鬼の手が迫っていた。それに目を見開き、反応しようと思う頃には顔面を鷲掴みにされてしまったのである。
「ぐっ!?」
「せめてもの情けだ。世が直々に貴様を黄泉へ送ってやろう」
顔面を鷲掴みにされ、宙に浮かされる焔鬼。その姿を見た茜は、全身に走る痛みに耐えながら地面を蹴ろうとした。手を伸ばし、今すぐにでも焔鬼の下へ向かおうとする。
だがしかし、茜の行動は間に合わない。既に妖術が発動段階となり、ものの数秒で放射型の妖術が焔鬼に放たれてしまうだろう。それを阻止出来ないと悟ってしまった茜は、自分にとって大事な存在を失ってしまう事に焦りが生じた。
「――ほーくんっ!!!」
心の底から出た声は、悲鳴のように周囲で響き渡る。その声を聞いた焔鬼は、小さく囁くように呟いた。まるで、待ち望んでいた物がやって来た事を嬉々とするように。
「今だ、蒼鬼」
「っ!?」
その焔鬼の言葉と同時に、頭上から蒼い剣戟が覇鬼の腕を切断した。
「ぐぅっ!?き、貴様……」
「……お覚悟を、私達の
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