第334話

 覇鬼の身動きを拘束した茜は、血反吐を吐きながらも耐え続けた。常時、様子を窺いつつ隙を狙い続けていたのだろう。その最中で大きな隙を作り出した茜の言葉に頷いた桜鬼は、充填していた妖力を撃ち放った。


 「っ!?(くっ、この者、避ける気が無いのか?)」

 「(絶対に離さない!!)」


 桜鬼の放った妖術が直撃コースだと悟った覇鬼は、拘束から逃れようと茜を引き剥がそうとした。しかし、茜がそれを許さない。拘束を緩めず、逆に逃がさないように拘束の力を強める。


 「貴様、世と心中する気か?」

 「そんなつもりは無い!!お前を倒す為には、これぐらいやらないと意味無い!」

 「クーッハッハッハ!!その覚悟、敵ながら天晴だ!しかし、あの者の妖術でダメージを受けるのは……貴様だけだ!!」

 

 覇鬼の言葉に奥歯を噛み締めた茜は、背中から桜鬼の妖術を受けた。防御する術を持たなかった茜は、桜鬼の妖術を受ける覚悟はあった。しかし、それは覇鬼がダメージを受ける前提の話だったのだ。

 だがしかし、その前提が覆されてしまった。それを目の当たりにした茜は、桜鬼の妖術が消滅した瞬間に体が揺らめく。その様子を見ていた桜鬼は、自身の術が通用しなかった事を理解したのだろう。


 「茜っ!!」


 背中に火傷のような痕が出来た茜を見て、表情を強張らせた桜鬼は妖力で作り出した縄を使って覇鬼から引き戻した。負傷してしまった様子に気に掛ける桜鬼に対し、茜は立ち上がろうとして覗き込む桜鬼を遮る。


 「私の事は気にしないで、あの人に回復の隙を与えないで!!」

 「で、でもっ……!」


 その言葉に従うべきか否か。それを考えた桜鬼だったが、その状況を見て焔鬼は茜の言葉通り動いていた。


 「くっ、次は貴様か!あの者を放っておいて良いのかね?」

 「あいつはオレの認めた奴だ。舐めんな、あの程度でどうにかなるような奴じゃねぇよ」

 「ハッ、虚勢みえを張るな焔鬼むすこよ。貴様の頭には、あの者の事しかないだろう?」

 「否定はしねぇよ。だがな、これだけは言っておくぞ、覇鬼」

 「……?」


 刀を振るいながら詰める焔鬼に対し、覇鬼は目を細めて剣戟を受け流し続ける。そんな最中、焔鬼は臆面もなく言い切ったのである。


 「――オレの許嫁を甘く見るな。あいつはオレの決めた女だ。あの程度で倒れる程、柔な奴じゃねぇよ」

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