第285話
『ぼ、ぼくに剣を教えてください!』
「お主はさっきの……(着いて来てしまったでござるか)」
盗人の襲撃に遭った村正は、見知らぬ子供にそんな事を言われた。盗人達のおにぎりを食べていた子供だが、病弱で、汚れてしまっている。傍から見れば、貧しい家に産まれたのだろう。
しかし、貧しい家に産まれたとしても、生活が苦しくても家族を蔑ろにする事は滅多にない。金銭的な問題があるのであれば、その可能性は完全に否定する事は難しいだろう。
「他を当たるでござる。拙者の剣は他人に……子供に教えるものではない」
『ぼく、強くなりたいんです!お侍さんのように、この世を生きられるように』
「……生きる力は確かに必要でござるがな」
村正は目を細めて、溜息混じりに肩を竦めてそう言った。少年の懇願する眼差しというのは、断るのも苦労があるというのを実感するもの。断れば、目の前に居る少年の未来がどうなるかを予想してしまうからだ。
関わりたくないと思えば、見過ごす事は容易に出来る。だがしかし、見過ごしたという事実だけが記憶に残るのは必然。そして見過ごした後、断った側の人間は罪悪感を抱き続ける事になる。
そう未来を想像した村正は、大きく溜息を吐いて少年に告げるのだった。
「着いて来るでござる」
『は、はい』
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