第286話
自分の選択が正しいか正しくないのか。それは一体、いつ決めれば良いのだろうか。正しいと決めて前に進む時か?正しくないと決めて足を止める時か?それとも、進んだ先の結果を見た時か?
少年に剣を教えるのも、盗人達を斬り伏せたのも、自分が剣を握る事を決めたのも、全ては自分を正当化する為の手段に過ぎない。目的はどうであれ、責任を問われるまで……歩んだ道が正しかったのか、間違っていたのかを判断する事は出来ない。
「すまぬでござる……少年よ」
剣の握り方、振り方、相手の倒し方……それを教えたが為に、目の前に倒れている
『お、お師様……すみ、ません。ここを、この場を……守り切る事が、出来ませんでした』
「それ以上は喋らなくて良い。傷に障る」
『お師様と過ごした日々は……身寄りのない僕に、幸せをくださいました。幸せでした』
「良い、良いのだ。それ以上はもう喋るでない」
『お師様と出会えて……本当に、僕は……幸せ者、でし……た――』
「あぁぁ……うぅ、あぁ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
幸福とは他者を映す鏡ではなく、他者を否定する鏡でしかない。恨みこそ、妬みこそ、人間の本質だという事を悟った瞬間だった。心の底から込み上げた衝動が、感情が、本能が……拙者を鬼と化した。
「灰は灰に、塵は塵に……拙者にはもう、鏡は
血溜まりの上でそう呟いたあの日から、鬼童丸と呼ばれるようになったのである。
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