第284話

 『うぉ……うぐっ!?』

 『は、はえぇ……がはっ!』


 盗人の間を擦り抜け、村正は刀を静かに納めた。それと同時に倒れる盗人達を見て、呟くように告げられた言葉は寂しげだ。

 殺生した事に対してか、盗人達の生き方に対してか、あるいは自分自身の振る舞いに対してか……いや、もしかすれば、その全てを含んでいるのだろう。


 「……」


 盗人達を抱え、木の根まで運び、背中を預けさせる形で座らせる。やがて持っていた握り飯を盗人達の間に置いた村正は、目を伏せて告げるのであった。


 「この世は弱肉強食……弱き者は強き者に淘汰されるが運命さだめ。お主達は、この生き方しか選べなかったのであろうな。これは斬ってしまった侘びであるが、お主達にはどうか……拙者を許さないで欲しいでござるよ」


 静かに微笑んだ村正は、立ち上がってその場から姿を消そうとした。


 「ん?――そこに居るのは誰か!」

 『……っ』

 「(子供?でござるか……)」


 気配を察知して刀に手を添えた村正だったが、姿を現した子供を見て刀から手を離した。だが弱肉強食である事に変わりなく、決して油断はせずに子供の様子を伺う。

 弱々しく、一目で貧しいというのが分かる装いだ。手足も何処か、汚れているのが目立っている。捨て子だろうと判断した村正は、肩を竦めながら溜息混じりに子供に言うのであった。


 「腹を満たしたければ、その者達に頭を下げるといい。拙者は何も見ていない」

 『……!』


 子供は村正の言葉に目を輝かせるが、盗人達の前に言って正座し始めた。握り飯へ手を伸ばしかけたが、すぐに姿勢を正して両手を合わせて目を閉じる。しばらくそのまま動かず、再び目を開けた子供は頭を下げて握り飯に手を伸ばしたのである。

 それを見届けた村正は、口角を上げてその場から立ち去ったのだが……。


 「お主よ……何をしておるのでござるか?」

 

 その子供が、着いて来てしまった。数年後、村正はそれを後悔する事になる。

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