第二十一夜「覇鬼、君臨す」

第272話

 「げほげほ……ぐっ……」

 「随分と耐えるな。纏いに到達したようだが、所詮はそれだけだ。オレの敵じゃないようだな。……魅夜」


 ニヤリと笑みを浮かべる焔鬼に対し、魅夜はボロボロになりながらもユラリと起き上がる。ゆっくりと立ち上がり、既に上がってしまっている息を整える。

 纏いを習得したばかりだからなのだろう。魅夜の消耗が激しく、右近と左近との戦闘でかなり体力も消耗してしまっている。そんな状態で焔鬼に挑もうというのは、魅夜自身も無謀だと理解している。

 だがしかし、先程のまま何処かへ行かせてしまえば……もう二度と同じ言葉を交わす事が出来ないと悟ったのだろう。だからこそ、魅夜は身を挺してまでも実力行使に出たのである。


 「……はぁ、はぁ、はぁ……考えは理解した。けど、理由は理解出来てない。焔、どうしてボク達を敵として見るの?仲間じゃないの!?」


 その問い掛けに対し、焔鬼は冷淡な声色で魅夜に告げた。


 「敵を敵と見做して、何が可笑しい事がある?……――っ!」

 「かはっ!?(き、斬られた?)」

 「オレの邪魔をする者は等しく敵だ。誰であろうと許さない、邪魔者は全て敵だ」

 「っ…………」


 倒れていく中で魅夜は理解した事が一つ増えた。焔鬼が自分達を敵と認定している事は勿論、その他にもう一つの確定事項である。それを理解した魅夜は倒れる体を支えるようにして、強く地面を踏んで焔鬼を睨み付けた。


 「やっと……スッキリした。ボクも、皆も、間違って無かった。……最初に見た時から変だと思ったのも、勘違いじゃなかった……お前はっ、焔じゃない!!」


 血を流しながら魅夜は、踏み支える体でそうハッキリと告げる。その言葉に対して否定しようとしたが、魅夜の目を見てそれが無意味だと判断したのだろう。

 焔鬼は片手で自身の顔を覆い隠しながら、笑いを堪えて、やがて大きく笑った。そしてたった一言、魅夜に告げるのであった。


 「くくく、くははははは、はははははははは……正解だっ」


 刀は大きく、振り下ろされた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る