第273話
「ほぉ……良く回避したものだ」
「はぁ、はぁ、はぁ……ふざけるな」
右近・左近との戦闘で妖力を激しく消耗した魅夜は、振り下ろされた刀を直感と予測で回避行動を取ったのだろう。だがしかし、肩で息が上がってしまっている魅夜の足元には、ポタポタと滴り落ちる血液が溜まり始めていた。
「胴体を二つに斬り裂くつもりだったが、世も甘くなってしまったものだ」
「ぐっ……(避け切れなかった。攻撃は見えていたのに、予想以上に速かった。今まで手を抜いていたのは一目瞭然だ。見下してるのが丸分かりだ)」
顎に手を添えながら呟く様子に対し、苛立ちを露にした魅夜は地面を蹴った。一気に距離を詰め、完全に意表を突いた形となった絶好の攻撃チャンス。視線がこちらに向けられていない内に魅夜は腕を振り下ろした。
「――っ!?」
「鈍いな」
だがしかし、その攻撃が当たる事はなかった。容易く回避された事に目を見開いた魅夜に対し、短くそう告げられた言葉と同時に魅夜は感じただろう。
この相手には、自分の力は通用しない事を。圧倒的な実力差がある事を……。
「既に纏いも解かれた。その程度では、遊び相手にもならん。死ぬが良い」
「っ……(殺されるっ、今度は避けれないっ)」
スローモーションに見える中で、魅夜は死を覚悟して痛みに備えて目を閉じた。
「……無事かぁ?猫」
「!?」
痛みが来ないと自覚する前に、魅夜は自分の居る場所が移動している事に気付いた。それを自覚した直後、聞こえて来た声に見覚えがあった。顔を上げてそこに居る人物を見た魅夜は戸惑いを隠せなかったのである。
「お、お前は……っ」
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