第260話
あの時の彼女の鬼化を止めたのは兄様だ。私は侵入した式神の相手をしていたが、紅い閃光がこっちにまで伸びて来た事を覚えている。
地面を抉る程の威力もあり、空間が火花と電撃を散らす程の膨大な妖力の塊。あれがもし放たれるようなら、ここ等一帯は只では済まないだろう。兄様が何を求めて現世に来たのか不明だが、もしここを新たな都とするのであれば……これ以上の破壊行動は抑えるべきだ。
「っ……!」
餓鬼は既に鬼化していると言っても良いが、あれはあくまで己の妖力を操れなかった者達の末路。自我を失い、魂までも鬼に売った集団という存在だ。
だがしかし、黒騎士見習いや黒騎士、それこそ兄様が妖力を暴走させた場合は想像が出来ない。周囲がどうなるか、暴走した本体がどうなるのか、という疑問すら浮かんでしまう程に未知の領域だ。
だが……だがもし、鬼化した状態を制御出来るようなら、出来るようになるのなら――今の私でさえも勝てない存在に成り兼ねない。
「アカネ……?」
膨れ上がった妖力が凝縮され、赤い電撃を全身に纏いながら静止する彼女。その静けさ自体が、私の中にある本能が告げ続けるのだ。
逃げろ。逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ……目の前に居るのは、正真正銘の化け物であると。
そんな言葉が心の中で響く中、彼女はユラリと体を揺らして視線を動かした。やがて自分の体が動くと確認し始めた後、微かな笑みを浮かべて言ったのであった。
「――やはりこっちの方が動きやすい」
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