第250話

 「……」


 幼少の頃、まだ黒騎士見習いにもなっていなかった頃だ。魔境に暮らす全ての妖怪の子供が集められ、魔境の中心に建つ塔の中で私は彼等に出遭った。

 人語を介する事が出来ない妖怪相手にし、無事に生き残る事が出来た者が黒騎士となる資格を得る。一種の儀式で集められた時、私と彼と彼女は同じ場所に一度だけ立った事がある。

 

 「……え、えっと」

 「あなたがいっしょにたたかう人?」


 こちらを覗き込むように身を乗り出し、後ろ手に組んで笑みを浮かべる彼女。そんな彼女の少し後ろで、興味の無い様子で目を細める彼。


 「わたしのなまえは、あかねっていうの。こっちは、ほーくん。よろしくね」

 「あかね、そのなまえはやめろ」

 「えぇ?かわいいとおもうよ」

 「どこがだ」


 ニコニコと話す彼女と違い、彼は静かで面倒そうに口を開く。その様子に少しだけ怯えつつも、私は彼に目を惹かれていただろう。


 「で、あなたのなまえは?」

 「……えっと、おうき」

 「おうき?どんななまえ?」

 「えっと……こ、こうかきます」

 「んー……なんかかわいくない。ねぇほーくん、なんかかわいいよびかたない?――あ、むししないでよー!」 


 周囲の者達とは違う雰囲気、異質な空気に包まれていた彼に。


 「そっちいったぁ!!ほーくんっ」

 「っ!」

 

 弱い妖怪が相手だとしても、力の使い方が分からない子供が集まっただけ。それでは、弱い妖怪でも倒す事は簡単ではなかった。だからある程度、協力しながら戦い方を覚える必要があったのだろう。

 ましてや、この戦いの結果次第で黒騎士に選ばれるという話だ。選ばれれば、今以上の戦う力が必要になり、更なる戦いが待っているのは確実。それを理解していた私は、全身を強張らせて戦いに望んでいた。


 「きゃっ!」


 その結果、私は彼等の……いや、彼の足を引っ張った。


 「だいじょうぶか?

 「え?」


 手を差し伸べられた時、彼は私をそう呼んだ。その時から、私はサクラと呼ばれる事になった。彼と彼女……そして私の三人で過ごす時間だけは、私は桜鬼ではなくサクラになれていたのだ。

 

 ――二人が、私から離れるまでは。

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