第243話

 二つの大きな妖力が衝突し始めた。その妖力の気配を感じた時、少しだけ全身が揺さ振られる感覚に襲われた。別に気にする程ではないと思うが、それよりも気になる気配はすぐ後ろにある。


 「いつまで着いて来るつもりだ?」

 「……テメェの正体が分かるまでだ」

 「さっきも言っていたな。オレの顔を見るなり、ずっと同じ事を繰り返すだけ。お前はそれしか言えないのか?」

 「さっさとテメェが正体を明かせば、オレはテメェを追わねぇよ」


 正体を明かせば……。そう告げる鬼、確か……狂鬼って名前だったか。その名前を聞く度に懐かしさを覚えるが、そう感じるのは一瞬だけだ。

 自分の正体を明かせと言われた場合、どう自分の存在を証明すれば相手は納得するのだろうか。そんな事を考えつつ、オレは周囲から感じる気配を辿ってみる事にした。


 「……(気配が大きいのが二つずつ、町らしき場所に複数の気配。二つの気配は恐らく、戦っている者達だろう。まぁ、オレには関係のない話だな)」

 「待てよ。さっさと正体を明かしたらどうだ」

 「はぁ、しつこい奴だな。どうすれば納得するんだ?」

 「簡単だ。名を名乗れ!オレは戦う時に名乗ったが、テメェは名乗ってねぇ」

 「確かに名乗っていたな。だが、オレが名乗らなければならないという決まりがあるのか?」

 「ぐっ……いや、別に無ぇが。剣を交えたんだ!お互いに名乗るのが礼儀だろうが!」


 そう言いながらビシッと指差してくるが、奴の言っている事は分からない訳ではない。だがしかし、名乗るべきだと思えば既に名乗っているだろう。それをしていないという事は、何か理由があると自然と分かると思うのだが……。


 「はぁ、悪いが名乗る事は出来ない」

 「はぁ!?どうしてだ!」

 

 苛立ちを露にした表情を浮かべ、文句あり気に声を荒げる。そんな狂鬼に対して、オレは面倒だと思いつつも理由を言うのであった。


 「――オレは、オレの名前を知らねぇんだ」

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