第244話

 妖術を操る事に長けているが、近接戦闘は茜に及ばない桜鬼。それに対して近接戦闘を得意とするが、妖術を操る事に関しては桜鬼に及ばない。互いの手の内は知っているが、それはもう昔の記憶でしかない。

 今の彼女達の間には、数年間の空白が生じている。


 「雷鳴よ、我が敵を討て……――天雷っ!」

 「っ……!」

 

 一つの妖術を連発し、桜鬼は茜の逃げ場を無くしていく。だが回避行動をしつつ、直撃コースとなる物だけを薙ぎ払っている。そんな茜を見据える桜鬼は、苛立たしく表情を歪める。

 回避し続けている茜が砂埃と爆風に包まれた瞬間、桜鬼は違う妖術を組み上げていた。数枚の札は天雷を放ったまま、新しい札を使用して口を開いた。

 

 「我が敵よ、灰塵かいじんせ……――剛炎華ごうえんか!」


 そう告げた瞬間、茜の真上に朱色の陣が展開された。一輪の花が咲き始め、やがてすぐにその花弁はなびらを散らす。砂埃と爆風を刀で振り払った茜の視界に、ユラユラと舞い散る様子を捉えた。


 「っ!?(ヤバっ!!)」

 「気付くのが遅いわよっ!!そのまま灰になれ!!――喝ッ!」


 ハッとした茜に対して、桜鬼は妖怪ではなく忍者のように両手で印を結んだ。既に回避行動を取り始めていた茜だったが、妖術を発動させる姿を見て回避行動を中断した。

 その場で立ち止まった。少し離れた場所には、杏嘉が倒れているからだ。


 「くっ……(間に合えっっ!!)――方陣よ、我が身を護れ!」


 倒れている杏嘉に覆い被さりながら、地面に刀を突き刺して声を上げた。その時には、茜の視界は爆風に包まれたのである。

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