第186話

 「……」


 白い息を吐きながら、氷の華の中に閉じ込められた彼女の姿を見つめる。怒号のように声を荒げていたからか、停止している様子は鬼の形相だ。同じ性別としては、あまり異性には見せたくない様子だ。

 そんな彼女の姿を見つつ、私は術を解いて元の妖力へと戻した。同時に姿が元に戻り、いつもの容姿になって全身が軽くなる。あの姿を維持するのは妖力の消耗が激しいとは、私もあの頃より衰えた物だ。


 「貴女もきっと、愛する者の為に戦っていたのでしょう。でもそれは、私も同じ事。幾世も戦いを生んできたのは戦いで、争い事が途切れる事はない。今までも、これからもそれは変わる事は無いでしょう」


 凍ってしまっている彼女の聞かせるように話すが、この声も言葉も届く事は無い。既に彼女は氷の監獄の中に囚われてしまった。それは鳥籠のように出る事は出来ず、一生彷徨い続ける虚無の世界。

 いつか私も、その場所に行く事になる。命が尽きるのが早いか遅いかの違いなだけで、それは誰にでも訪れる平等の物だ。


 「もし、出会う時代が違ったなら……私と貴女の立ち位置は逆だったかもしれませんね。それかもっと別の場所で出会っていれば、私と貴女は友人になれたかもしれないですね」


 悲しさを覚えてしまうが、これ以上は相手を侮辱する事になる。下手な慈悲は、それこそ冒涜でしかないのだから。

 私は彼女に送れる言葉は、今はこの言葉が相応しいでしょう。


 「――また会いましょう。来世で待って居て下さい」


 その時は、次に敗北するのは……私かもしれないですね。


 「負けるつもりは毛頭ありませんが」


 そう呟いた瞬間、彼女は氷の華と共に砕け散った。背中から過ぎていく冷たい空気と氷の破片は、彼女の命のように空へと舞い上がった。

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