第185話

 「……くっ」


 襲い掛かる氷雨は、氷柱となって魔鬼に降り注ぐ。回避行動に専念しつつ、刹那へと火球を飛ばし続けている。しかし、刹那はそれを片手間に捌いている。そんな様子を見れば、誰でも考えてしまうだろう。実力差は歴然だと。


 「私の結界の中でいつまで持ちますか、見物ですね」

 「はぁ、はぁ、はぁ……(雪の所為で足場が悪いわね)」


 自由に身動きが取れない中、刹那の攻撃を捌きながら戦うのは至難の技だろう。四方八方から降り注ぐ氷柱の威力は、一度でも当たれば致命傷になるのは間違いない。

 そんな氷柱を掻い潜り、魔鬼は刹那へ攻撃を当てなくてはならない。だが回避行動を優先している所為で、瞬時に生成している火球の威力は落ちる一方だ。このままでは、やがて体力が尽きて敗北してしまうだろう。


 「そろそろ降参してはどうですか?貴女では、私に勝つ事は不可能ですよ。大人しく、ここで死になさい。――妖術、氷華・ざん


 刹那の言葉と同時に、今まで氷柱だったそれは鋭利な刃へと変貌した。視界に広がったそれを目の当たりにした魔鬼は、回避しても間に合わないと悟ったのだろう。防御する為、無数の火球を出現させる。

 

 「相殺するおつもりですか?その数では、足りませんよ」

 「そうでしょうね。けど、あたしは負けないっ!負ける訳にはいかない!」

 「それは、私も同じです」


 互いに放った攻撃は次々と衝突し、視界が徐々に狭まっていく。衝突した瞬間に爆散し、霧という名の壁が互いの視界を奪っていく。条件は五分、勝利するのは……どちらかの攻撃が途切れた瞬間に決まる。


 「あたしはあの方に仕える黒騎士、その一人である以上――敗北する訳にはいかないのよっ!!」

 「言ったはずです。いくら吠えようとも、私には勝てない。それが貴女の限界です」

 「っ!?(左右から攻撃がっ?くっ、回避出来ない。……それでもっ!)」


 霧の向こう側から見えた刹那の攻撃。それを視界に捉えた瞬間、魔鬼は回避出来ないと悟り方陣を展開した。その方陣から、火球、風球、土球、水球が出現する。

 地水火風全ての球体を出現させた魔鬼は、回避を捨てて応戦する事を決めた。それを見据えた刹那は、目を細めて中空で手の平を魔鬼へ向けて告げたのである。


 「――これで終わりですね。妖術、氷華・さい

 「……あたしは、こんな所で死ぬ女じゃないのよっ!」

 「さようなら」


 魔鬼の放った術は破られ、刹那の攻撃が直撃した。その瞬間、魔鬼の体に氷の華が咲き乱れたのであった。

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