第174話

 頭上を覆う程の暗雲を見た瞬間、魔鬼は自身を取り囲むように方陣を展開した。咄嗟の判断で取った行動を見つめる刹那は、無数の氷の雨が魔鬼の頭上から襲い掛かる。

 降り始めたが防御が間に合ったと思った魔鬼は、展開した方陣の中で安堵の息を漏らす。だがしかし、その様子を見届けていた刹那は下ろした手を再び中空へ差し出して呟いた。


 「……ただの妖術であれば、氷の雨を降らす事は容易い事。この術で降らしている氷は、一つ一つが私の術で生成された術と言っても良い。それが何を意味するのか、貴女は分かりますか?」


 そう言いながら親指と中指を合わせた刹那は、防御に徹しようとしている魔鬼を見据える。目を細めたと同時に口角を上げ、微笑する刹那は告げたのである。


 「――妖術、氷華ひょうかノ舞」


 方陣を展開する魔鬼の視界に広がる暗雲から、降り注ぐ氷雨は空中で動きを止めた。まるで目の前で時を止められたかのように。

 それを見据えていた魔鬼に対して、停止していた氷雨の向きが変わった。その瞬間、魔鬼はハッとした様子で目を見開いた。


 「(この防御は駄目だ!!すぐにこの場から移動しなければっ、――死ぬ)」

 「もう遅いですよ、その術は標的を一輪の華と化させる」


 回避しようとした魔鬼の様子を伺いつつ、直撃したのを見た刹那は目を閉じる。背中を見せる刹那に対して、魔鬼は一矢報おうと無防備になった刹那との距離を詰めようとしたが時は既に遅い。

 体に触れている氷雨が形を変え、魔鬼の全身を凍て付かせていく。やがて身動きが取れなくなった事を理解した魔鬼は、刹那へ腕を伸ばしたまま小さい方陣を展開する。

 だがしかし、その術を放とうとする前に刹那の術は完成した。


 「貴女の墓標に華を添えましょう。さようなら」

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