第173話

 視界を覆う程に染まっている一面の雪景色。いや、氷景色というべきだろうか。その景色を眺めながら、刹那は微かに感じる気配を追うように視線を動かす。


 「……」


 探られるのを避けているのか、氷柱に姿を隠す魔鬼は刹那の様子を伺う。互いに互いの場所が分かっていない状態だが、もし氷を伝って索敵出来るのであれば刹那が有利だろう。

 だがその様子がない以上、魔鬼は次の攻め方を考えながら状況を整理している。


 「(彼女の術はかなりの広範囲だし、このまま待機してても時間を浪費するだけでしょうね。でも、この状況を打開するにはそれなりの術で対抗するしかない。刹鬼が居れば簡単に倒せるのだけど……今回は各自で妖怪達を相手するように言われてるし、なんとかするとしましょう)」


 思案を巡らせる中、気配を探る事を止めた刹那は溜息混じりに口を開いた。


 「――魔鬼さん、と言いましたっけ」

 「??」

 「何らかの術を使っているのか、どうやら貴女は気配を消すのに長けているようですね」

 「……(何のつもり?油断させるつもりなのかしら)」

 「ですので、少しばかり荒療治をしたいと思います」


 刹那は目を細め、片手を空へと掲げるように伸ばした。その瞬間、空の様子が一変する。雲の流れが速くなり、掲げた手に反応するようにして中心に集まっていく。

 

 「(まさかこれは……不味い。早くここから離れないと)」

 「……どうか私を、幻滅させないで下さいね」


 そう告げた刹那は、ニコリと笑みを浮かべて掲げた手を下ろした。

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