第171話

 魔鬼の視界を覆う程の氷景色。それを目の当たりにした魔鬼は周囲を見渡し、刹那の姿を探し出す。その氷景色の中心で白い息を吐きながら、刹那は目を細めて中空に手を伸ばして言った。


 「――逃がしませんよ」

 「くっ、朱雀ッ!!」


 伸ばされた手に反応し、刹那の足元から氷の角柱が魔鬼に迫る。再び炎球を出現させた魔鬼は、迫る攻撃にそれを衝突させる。

 視界がより濃い霧に染まる事になってしまったが、直撃するよりは良いと判断したのだろう。そして魔鬼は霧の中から移動し、刹那へ接近しようと考えていた。だがしかし、その行動を取る事は出来なかった。

 

 「(これでまた接近戦を仕掛ければ……っ、殺気!?)」

 「肉弾戦が得意と仰っていましたが、こんなのはどうでしょうか?」

 

 ギリギリに回避行動が間に合った魔鬼は、体を捻ってそのまま空中を流れるように移動した。霧の中から抜け出た魔鬼だったが、霧の中に居る刹那の影を睨み付ける。


 「(今のは槍?そんな物何処から)」

 「簡単な術の応用ですよ。貴女に仕掛けた術の一部を改変させ、手頃なサイズにした氷の槍を生成しただけに過ぎません。そう、ただの応用です。――こんな事も出来ますが」

 「っ!?」


 そう呟いた刹那はニヤリと笑みを浮かべ、もう一度中空に手を差し出した。氷の角柱を警戒した魔鬼はさらに高い場所に移動したが、それに動揺する事なく刹那は差し出した手をゆっくり閉じた。


 「この技は久々ですが、死にたくなければ防御はお勧めしませんよ。――氷槍ひょうそう針鼠はりねずみ


 その言葉と手を見聞きした瞬間、魔鬼はハッとして周囲を見渡した。それを見た魔鬼は、目を見開いて言葉の意味を察した。

 何故なら魔鬼の周囲には、無数の氷の槍が展開されていたのである。


 「フッ……これは、避け切れそうにないわね」


 そう呟きながら、魔鬼は思わず苦笑したのだった。

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