第170話

 完全に油断していたのだろう。刹那は奥歯を噛み締めたまま、後方へと下がりながら回避に徹する。そんな刹那に自分の行動が出来ないように、魔鬼は果敢に攻めの姿勢を崩さない。

 攻める手を緩める気配のない魔鬼に対し、刹那は氷のつぶてで応戦する。だがしかし、魔鬼は軽々と回避して刹那へと拳を突き出す。耳元で風を切る程の鋭い拳が放たれる。


 「くっ……!」

 「避けてばかりでは戦いにならないわよ!刹那さんっ」

 「ぐっ!?(ただの蹴りでこの威力……彼女の体術スキルは、かなりの物のようですね。予想が外れたのは驚きましたが、これ以上好きにさせる訳にはいきませんね)」

 「やっとやる気になった顔をしましたね?(空気が凍りそうね、本番はここからという事かしら?)」


 妖術で対抗していた刹那だったが、短い呼吸をしてから魔鬼を見据える。そして再び氷の礫を魔鬼へ飛ばしたが、それをいとも容易く叩き落とされる。


 「まさか、それが切り札とは言いませんよね!!」

 「そうですね。どうやら貴女は強いようですので、私も本気で行かせて貰います」


 そう告げた刹那は妖力を解放したのだろう。魔鬼は気配が強くなった事を感じた瞬間、咄嗟に距離を開けるように後方へ跳んだ。だがしかし、その判断が間違いだった。

 ニヤリと笑みを浮かべた刹那に対し、魔鬼はハッとした表情を浮かべた。


 「距離を開けた所で、この術を回避する事は不可能ですよ。――妖術、絶対零度ぜったいれいど

 「(この方陣の範囲はっ、不味い!!)」

 「全てを包んで差し上げますよ、真っ白に」

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