第157話

 咄嗟に耳へ入って来た声を聞いた瞬間、魅夜は瞬時にその場から飛び跳ねるように移動した。地面に足を引き摺る程の速度だった為、振り返りながら速度を押し殺すように止まるしかない。

 やがて徐々に速度が収まったと思い、魅夜は声の主の顔を恐る恐る覗き見る為に顔を見上げた。するとそこには、数日前に姿を見たっきりだった鬼組総大将である焔鬼こと神埼焔の姿があったのである。


 「ほ、焔……っ」

 「久し振りだな。こうやって話すのは、お前が鬼組に入って以来か?」

 「っ、どうしてここに?」

 「安心しろ。今のオレにお前と戦うつもりはない。野暮用を片付けに来ただけだ」

 「……」


 焔の声、姿形は変わっていない。しかし、焔を包んでいる空気は負のオーラに包まれている。そう、まるで餓鬼や黒騎士が妖力を解放した時のような重圧と空気。それを感じざるを得ない魅夜は、奥歯を噛み締めるようにして警戒する。

 そんな様子の魅夜を見て、焔は……否、焔鬼は口角を上げつつも魅夜の横を無造作に通り過ぎる。それに驚きつつも、重圧に負けて動けずに魅夜は冷や汗を頬に伝わせる。


 「この二人は連れて行く。こんな奴等でも、今は立派なオレのなんでな」

 「焔っ、どうして敵なんかに……くっ」


 そう問い掛けようとした瞬間、妖力が風圧を生じさせて魅夜の視界を奪った。それと同時に焔鬼の姿が消え、魅夜は苦しかった重圧から解放されたのである。

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