第124話

 「妖力――解放っ」


 半妖である魅夜の妖力は、通常の妖怪よりも多い。加えて身体能力も妖怪よりも高く、総合的に考えても普通の妖怪よりも半妖は優れていると言えるだろう。

 だがしかし、魅夜は未だに妖力を操る術をマスターしていない。強くなる為に訓練したと言っても、妖術の応用をしたの過ぎないのだ。しかし、それでも魅夜は一歩も引く様子は無かった。

 

 「(杏嘉から教えてもらった戦い方……これでボクも戦えるっ)」


 人間から迫害を受けていた過去を持ちながら、魅夜はこの幽楽町を守っている鬼組に所属している。最初は嫌悪感に満ちていただろう。不満感を覚えつつも、魅夜は一度も鬼組を去ろうとはしなかった。

 

 「この気配……流石は半妖と言った所でしょうか。でも、私達には貴女の攻撃は通用しない。それを忘れたのですか?」

 「っ、右近お姉様!下がってっ!!」

 「え?」


 自分が役立たずではない。それを証明する為、焔や仲間達に恩を返す為に。引き下がるつもり等、魅夜の辞書には載っていなかった。


 「――紅双牙こうそうが!!」

 

 一気に距離を詰めた魅夜。その動きを捉えていたが、反応する事が出来なかったのだろう。右近はハッとしつつも、眼前に迫った魅夜から離れる事は出来なかった。

 そんな右近に警告するように叫んだ左近でさえ、瞬時に距離を詰めた魅夜の動きに着いて行く事が出来なかった。その好機を逃さなかった魅夜は、紅く輝いた爪で右近に振るったのである。


 「ぐあぁぁぁぁぁ……ぐっ、貴様アァァァァァァ!!」

 「右近お姉様っ!」


 奥歯を噛み締めながら、痛みを耐えようとする右近。そんな右近の足元には、切断された右腕が落ちていたのであった。

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