第123話

 一年前……。


 「はぁ、はぁ、はぁ……」

 「どうした魅夜、もう終わりか?」

 

 黒騎士との激闘の末、焔という総大将を失った鬼組。胸にぽっかりと空いた感覚は、組員達を含めて町の住民にも喪失感を与えていた。だがしかし、いつまでもその喪失感を感じている訳にもいかない。

 日常とは、時間とは、常に流れている物だ。雑念を感じていても、時は進むし空腹感にも襲われる。生きている者として、生きている限りの役目という物があるのだ。

 

 鬼組では、新しく幹部の座に魅夜が加わっていた。力不足を訴えた魅夜は、もっと相応しい者が居るのではないかと講義した。だがしかし、ハヤテや他の幹部達は揃って魅夜の言葉に首を振る。

 肯定してくれるのは有難い話だが、それでも自分に務まるのかどうかが不安なのだろう。そう感じていた魅夜が取った行動はただ一つ、幹部として強くあろうとしたのである。


 「アタイに頼んだんだ。手加減なんてして欲しくねぇだろうから、本気でやらせてもらうぜぇ?魅夜」

 「杏嘉……屋敷を壊すでないぞ。壊れた箇所を直すのは、ワシなんじゃからのう」

 「はいはい、わーってるよ」


 手をひらひらとさせながら、杏嘉は綾の言葉に応える。目の前を見据えれば、集中状態となった魅夜が身構えて目を細めた。


 「最初から、本気……手加減したら許さない」

 「フッ……来い」

 「はぁあっ!」


 「チッ……壊すな言うたろうが」


 肉弾戦を得意とする杏嘉に対し、あえて肉弾戦を挑む魅夜。鍛える為とはいえ、実力差は歴然としている。そして、決着はすぐについてしまう。


 「――はぁ、はぁ、はぁ」

 「おいおい、もう終わりか?まだ準備運動程度の力しか使ってねぇぞ」

 「あれで準備運動?どれだけ妖力があるの?杏嘉」

 「あ?妖力の総量で言えば、お前の方が上だぜ?アタイはただ、妖力を一点に集中して打ってるだけだ。その分、消耗も無くて戦いやすい。そうだな、特別に教えてやるよ魅夜」

 「何を?」

 

 首を傾げた魅夜に対して、杏嘉はニヤリと笑みを浮かべて告げたのである。


 「半妖じゃなく、妖怪の戦い方って奴をさ」

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